日本人は世界で一番エビ、カニを消費する国民である。これらエビ、

カニなどの甲殻類、トンボ、セミなど昆虫の外郭成分、あるいはキノコ

や細菌の細胞壁を構成しているのがキチンで、これを化学処理したキト

サンと合わせて一般にはキチン質と呼んでいる。キチンは地球上ではセ

ルロースの次に多量に生産されているものと推定されているが、そのほ

とんどは廃棄されている。資源の枯渇化が叫ばれる中、地球上に残され

た数少ない巨大な未利用生物資源(バイオマス)として、このキチンの

利用研究が近年、急速に進展してきている。

 キチンは生体の支持や防護の役割を持っているため、物理、化学的に

も強固で、水、酸、アルカリには溶けない。キチンは生体内では蛋白質

や炭酸カルシウムなどとともに存在しているが、希酸や希アルカリでこ

れらを除き、さらに強アルカリでアセチル基を取り除いたものがキトサ

ンである。したがってカニやエビの殻を食べてもキチンが体内でキトサ

ンに変化することはない。キトサンは遊離アミノ基を含む数少ない塩基

性の多糖で、構造はセルロースによく似ている(図−1)。セルロース

を植物性の繊維とすればキトサンは動物性の繊維で、食品添加物や栄養

補助食品として広く利用されている。実験動物でのLD50は16g/kg以上

で、これはショ糖よりも大きい。

 キチン・キトサンは種々の機能を持っているが、その一つに抗菌作用

がある。すでに商品化されているものも多く、この2〜3年、世の中を

騒がせている大腸菌O-157に対しても優れた抗菌効果を示す。また、生

体適合性に優れているため、人工皮膚、人工血管、外傷など外科治療促

進剤としても利用されている。さらに最近、キチン・キトサンあるいは

これらを加水分解して得られるオリゴ糖の免疫賦活効果が注目を集めて

いる。

 キチン・キトサンはキレート作用を持っており、ロシアでは海洋投棄

された放射性廃棄物の回収にキチン・キトサンを利用する研究が進めら

れている。吸着実験を行うとキトサンはコバルト-60、亜鉛-65、

鉄-59、ルテニウム-103を90〜100%吸着する。また、核分裂の際に

大量に生成されるストロンチウム-90は身体の中に入ると骨に沈着する

ため、もっとも危険な放射性核種の一つであるが、キトサンはこの放射

性ストロンチウムに対して排泄促進効果がある。動物実験ではキトサン

を日常的に摂取しているとストロンチウムを体内に吸収蓄積するのを未

然に防ぐことができる(図−2)。

 チェルノブイリ事故後、「ゲール博士のアドバイス」、という出所不

明の文書がウクライナ共和国のキエフ市内で出まわり、放射能から身体

を守るために摂取すべき食品として胡桃、そば、人参、ひまわり油、カ

ルシウム、赤ワインなどのアルコール類があげられていたという。その

効果のほどはわからないが、これらの食品の中には金属吸着能を持つ成

分が含まれているものもあり、あながちでたらめとは言いきれないとこ

ろがある。近年、食品中の生体調節機能が注目されているがキチン・キ

トサンの放射線防護分野への応用も今後大いに期待される。

                 (人間環境研究部 西村 義一)