粒子線治療技術の高度化を支える核反応実験データ |
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粒子線治療の治療計画には粒子線と人体の相互作用を記述し、粒子の体内分布を計算する計算機プログラム(計算コード)が用いられています。この計算コード内には高エネルギー粒子と人体を構成する様々な原子核との多彩な核反応を記述するために、粒子の反応エネルギーと反応過程に対応した様々な理論モデルが組み込まれています。この理論モデルが与える結果は計算コードの結果を左右することから大変重要です。放射線医学総合研究所サイクロトロン施設を利用して、高エネルギー加速器研究機構、放医研、東北大学が協力して、数10メガ・エレクトロンボルト(MeV)の陽子や炭素が、炭素やアルミニウムと衝突した時に生成・放出される粒子(核破砕片と呼びます)のエネルギー測定を放出角度毎に測定しています。 この研究では、生成量は少ないが生物学的効果の大きい、比較的重い生成粒子に着目し、データの取得を行っています。実験に利用する数10MeVの陽子や炭素は、一般に粒子線治療に用いられる数100MeVと比べると低いエネルギーですが、原子核を構成する一個一個の核子の相互作用が主体となる数100MeV以上の高いエネルギーと異なり、数10MeVでは原子核の構造が核反応に関与するので、よりモデル化しにくいエネルギー帯となります。なかでも核破砕片生成過程はデータが少なく、測定データが計算モデルの構築に重要な役割を果たすことが期待されます。 数10MeV領域の核破砕片生成の実験データが少ない理由の一つは、適当な核破砕片検出器が無いことです。数10MeVの入射エネルギーで生成された核破砕片は数MeVのエネルギーしか持たず、検出器に達する前に容易に止まってしまいます。たとえば10MeVの炭素はよく用いられる検出器材料のシリコン中では約10マイクロメートルで止まってしまいます。この止まりやすい核破砕片のエネルギーを測り、種類を決めるためには、独自にデザインした検出器を開発する必要がありました。図1に開発した検出器と信号の模式図を示します。極薄 (0.2マイクロメートル) の入射口を持つ円筒容器に0.25気圧のガスが詰めてあり、この中に測定したい核破砕片を入射させます。核破砕片はガス中で停止し、ガスを電離して電子を作ります。容器の中には陽極と陰極による電場がかかっており、電子を陽極に向かって収集し、信号を得ます。このとき陽極の直前にグリッドを置くことにより、陽極の信号の立ち上がり時間から粒子の停止間際の電離 (ブラッグピーク) の信号が得られます。また、全電子数は入射した粒子の全エネルギーに比例します。さらに、電子の移動時間信号を取り出す方法を開発し、ブラッグピークより低いエネルギーの粒子も判別する方法を開発しました。図2にブラッグピークの高さと粒子の全エネルギーの2次元プロットを示します。粒子毎に異なるブラッグピークが測定されており、このデータを元に測定粒子の種類を決定することができます。図3には40MeV陽子が炭素原子に入射した際に生成されるリチウム原子のエネルギー分布を本手法で測定した結果を示します。いくつかの計算モデルを用いた計算例もあわせて示してありますが、すべてのデータ点を再現出来るモデルは未だありません。 この実験は本年から、系統的・網羅的なデータの取得を目指し、エネルギー・角度範囲・ターゲット核種を大幅に拡充して行われることになりました。そのためには、より広いエネルギー・強度・粒子種範囲を測定できる検出器を多数開発し、同時に用いなければなりません。この検出器開発にも、毎秒数粒子から数100ナノアンペアまでの広い粒子強度とECRイオン源の採用による多彩な加速粒子を、短時間の調整で実験者に供給できる放射線医学総合研究所サイクロトロンが役立っています。 ![]() ![]() 図2ブラックカーブカウンターで測定した粒子のブラッグピークとエネルギーの分布図。炭素に72 MeV 炭素粒子を入射した場合。粒子の種類により固有のブラッグピークが測定されている。炭素の島状の成分は反応の残留核12C の励起準位による成分。ベリリウムの2 本線はベリリウムの同位体7 と9 に対応している。左側のブラッグピークが重なっている部分(
![]() 図3 40 MeV、 50 MeV陽子が炭素に入射した時に30度方向に放出されるリチウムのエネルギー分布。計算コードの結果もあわせて示す。計算コードでは比較のために3種類の平衡状態前の反応モデル(Bertin, ISOBAR, QMD)を平衡後の反応モデル(GEM)と組み合わせて用いた。計算コードの結果はモデルに大きく依存し、計算コードでは再現できない高いエネルギー成分が測定で得られている。
高エネルギー加速器研究機構 佐波 俊哉、萩原 雅之 |
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