がん治療最前線

シリーズ35
中枢神経系腫瘍に対する重粒子線治療

中枢神経系腫瘍に対する従来の光子線による放射線治療では、抗がん剤と併用しても、放射線感受性の低い腫瘍が多く、その局所制御率は低い。また、腫瘍周囲の正常脳や近接する組織(視神経、脳幹等)の障害を最小限にする必要があるため、これらが制限因子となり、十分な治療線量を照射することが不可能なことが多い。このような難治性の腫瘍に対して多くの試みがなされたが、有効な治療法はまだ存在していない。これに対して高RBEという生物効果と荷電粒子線としての良好な線量分布を併せ持つ重粒子線の効果が期待されている。

中枢神経系(脳、頭蓋底・傍頚髄)腫瘍に対する重粒子線治療の経過を図-1に示す。

 脳腫瘍

1993年10月から2002年2月まで、66例の星細胞腫や悪性グリオーマに対して第I/II相線量増加試験(プロトコール:9302)が行われ、腫瘍の局所制御および早期・遅発正常組織反応の解明等、基礎的データの収集が行われた。星細胞腫は炭素イオン線単独照射で、線量増加に伴いProgression free survival(PFS)および累積生存率が上昇する傾向が確認された。悪性グリオーマに対するX線と炭素イオン線の併用療法の結果は、退形成性星細胞腫の低線量群(16.8〜20.0GyE)では、局所制御期間の中央値が18ヶ月、高線量群(22.4、24.8GyE)では31ヶ月、また多形性膠芽腫では、16.8GyEが4ヶ月、18.4GyEと20.0GyEが7ヶ月、22.4GyEが5ヶ月、24.8GyEが 14ヶ月と、明らかに従来のX線治療を上回っている。また炭素イオン線の線量増加に伴いPFSおよび累積生存率が上昇する傾向が確認されており、炭素イオン線治療の有用性が示唆された。これらの結果を受け、2002年4月からは悪性グリオーマに対する炭素イオン線単独(20回/5週間)の第I/II相線量増加試験(プロトコール:0101)が開始し、現在第2段階目まで線量増加が行われ、10例が登録されている。

 頭蓋底・傍頚髄腫瘍

1997年5月から2004年2月まで、28例の頭蓋底・傍頚髄腫瘍に対して第I/II相線量増加試験(プロトコール:9601)が行われた。線量増加は48.0GyE(3.0GyE/1回)から開始し、52.8GyE(3.3GyE/1回)、57.6GyE(3.6GyE/1回)、60.8GyE(3.8GyE/1回)と現在第4段階目である。腫瘍反応は低線量群(48.0および52.7GyE)で脊索腫の1例に局所再燃を認めたが、それ以外では照射線量にかかわらず再燃例は見られなかった。第4段階目の線量群(60.8 GyE/16回/4週間)の観察期間は、解析時点で最短6ヶ月、最長16ヶ月であり、長期予後の結果から判断される疾患であるため、最終的な結論にはもう少し時間が必要だが、良好な局所制御が得られていると思われる。本プロトコールは2004年2月で臨床試験を終了し、2004年4月からは同症例に対して、60.8 GyE/16回/4週間の線量分割法で、高度先進医療として治療が行われている。

左傍咽頭間隙脊索腫の炭素イオン線治療の症例を提示する(図-2)。炭素イオン線52.8GyE/16回/4週間の治療後66ヶ月経過している。腫瘍はほぼ消失しており、明らかな腫瘍再発、再燃等もなく経過は良好である。

(重粒子医科学センター病院 長谷川 安都佐、溝江 純悦、辻井 博彦)

図-1 プロトコールの流れ
図-1 プロトコールの流れ
図-2 脊索腫術後再発(左傍咽頭間隙)治療前 線量分布 治療後
図-2 脊索腫術後再発(左傍咽頭間隙)

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