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シリーズ34 |
眼球脈絡膜悪性黒色腫は日本での発症が年間およそ30人と大変めずらしい疾患です。かつては非常に予後の悪い疾患と考えられ、わが国では長く眼球摘出が行われてきました。この疾患の多い欧米では、眼球温存療法として放射線治療が広く普及しています。当施設でも1986年に本腫瘍に対して眼球温存を目的とした陽子線治療がはじめて行われました。さらに、その後の治療実績をもとに2001年からは炭素イオン線による臨床研究が開始され、高い局所制御率と眼球温存率が示されました。現在では高度先進医療に移行し、従来は温存療法の対象とはならなかった腫瘍に対しても、眼球を温存した状態での高い局所制御をめざしています。 ■ 脈絡膜悪性黒色腫に対する粒子線治療への期待 脈絡膜悪性黒色腫とはメラノサイトより発生する悪性腫瘍です。この腫瘍が増大すると網膜剥離をひきおこしたり、網膜から強膜へ進展していき、さらに転移をおこすこともあります。従来、眼球摘出が唯一の治療法であったため、眼球の形態や機能をも温存しうる保存的治療が必要とされてきました。こうした中で、粒子線治療は欧米を中心として眼球温存療法の重要な選択肢として位置づけられ、高い効果を挙げてきました。 放医研においては、1986年に小-中等度の大きさの腫瘍を対象とした陽子線治療が開始され、その実績をもとに2001年からは炭素イオン線による臨床試験が開始されました。いずれの治療法も良好な成績を挙げており、この腫瘍の根治的治療法となることが期待されています。 ■ 炭素イオン線治療の対象と方法 現在行われている脈絡膜悪性黒色腫に対する炭素イオン線治療の対象は、陽子線治療では視力の温存が難しく治療対象とされてこなかった大きな腫瘍(腫瘍の長径が15mm以上または腫瘍の厚みが」5mm以上)、または、重要な器官の近傍にある腫瘍(視神経乳頭の3mm以内)です。炭素イオン線は陽子線よりも側方へのビームの半影(ゆらぎ)が少なく、シャープな線量分布を形成することが可能であり、また高LET放射線であるため生物学的効果が高いことから、重要器官の近傍にある大きな腫瘍に対しても高い治療効果が期待されているのです。 一般に脈絡膜悪性黒色腫の放射線治療には、腫瘍近傍に放射性物質を直接縫着して治療する小線源治療と、からだの外部から放射線を腫瘍めがけて照射する外部照射の2つの方法がありますが、炭素イオン線治療は外部照射です。照射方法は、1日1回、週4日間の治療を合計5回行いますので、およそ8日間で終了します。治療計画は、CTで確認された腫瘍の位置におよそ3mmの安全域をとった領域を標的として、この部分だけに高線量を照射し周囲の正常組織にはほとんど照射されないように計画されています。実際の治療では、患者さんはベッドに横になり顔を固定するためのマスクを装着します。つぎに最適な照射方向を考えた位置に小さな光をともし、患者さんはこの光を凝視します。治療は正面から行います。治療時間は1回につきおよそ2秒から7秒くらいです。使用する炭素イオン線は140MeV、現在の線量および分割法は70GyE/5回(1回14GyE)です。 ■ これまでの治療結果と今後 これまで治療された42名の方の経過観察では、2004年2月現在、全員が局所再発なく生存されています。よって局所制御率、生存率ともにいままでのところ100%です。幸いなことに、1名をのぞいて転移もみつかっていません。正常組織の反応については、早期の皮膚反応では湿性変化をわずかに伴う軽度の皮膚反応(Grade 2)が4名で出現したのが最大で、それ以上の反応は認められませんでした。また、治療後に眼圧の上昇や、視力の低下が一部にみられましたが、どちらも治療方法よりもむしろ対象となる腫瘍の大きさや位置が影響していると考えられ、いまのところ許容範囲内の頻度と考えられます。炭素イオン線によって治療された患者の治療前後のMRI、PET画像および治療時の線量分布の1例を示します(図)。治療前後で比較すると、MRIで腫瘍の大きさはあまり変化がありませんが、PET像では集積が明らかに低下しており、治療効果が良好であることが推測されます。 ![]() 炭素イオン線治療による正常組織反応は許容範囲内であり、局所効果も陽子線治療と同等以上であることが示されつつあることから、本年4月より本腫瘍の治療に高度先進医療としての運用が開始されました。今後さらに、炭素イオン線治療は高い局所制御率を維持できる温存療法のひとつとして、重要な役割を果たしていくと考えられています。 (重粒子医科学センター病院 柳 剛、辻 比呂志) |