がん治療最前線

シリーズ32
子宮がんに対する重粒子線治療


子宮がんに対する重粒子線治療では、子宮病巣中心部に向かって照射標的を絞り込んでいく照射法の開発を重ねてきました。その結果、健常臓器の有害反応は軽減され、腫瘍制御は線量の増加とともに向上しています。大きな頸部扁平上皮がんも制御されており、腺がんにも高い効果が得られています。


 より有効な放射線治療法への期待

子宮がんとは、子宮にできるがんの総称です。実際には病気の性質や治療法が異なるため、発生部位や病理組織型によってさらに細かい病名をつけています。まず、子宮がんは、体部から発生する子宮体がんと、頚部から発生する子宮頚がんに大別されます。次に、病理組織型としては、体部に発生することの多い腺がん、頸部に発生することの多い扁平上皮がん、その他に分類することができます。本邦では、頚部の腺 がんや体がんは増加傾向にあります。

放医研では、これまで3,500人以上の子宮がんに対する放射線治療の実績を有し、国内の標準的治療の確立に大きく貢献してきました。その成果としてI、II期の小さな子宮頚部扁平上皮がんでは手術と同等の成績が得られています。さらに手術困難なIII期でも、放射線治療を受けた場合は約半数の方が治療5年後に生存していますが、一般には腫瘍が大きくなるほど治りにくくなります。また、腺がんの治療は手術が第一選択となっていますが、腺がんは扁平上皮がんより放射線の治療効果が劣ることが多く、手術できない頚部腺がんや体部腺がんに対する放射線治療は、まだ満足できる成績とは言えません。重粒子線治療では、従来のX線やガンマ線治療に比べて病巣への線量集中性や殺細胞効果が優れているため、そのような腫瘍に対しても根治性の高い治療となることが期待されています。

 重粒子線治療の対象と方法

子宮がんの重粒子線治療は1995年6月に開始されました。現在、この治療の対象となるのは、子宮頚部扁平上皮がんではIIB-III期の4cmをこえる大きな腫瘍か、IVA期(膀胱浸潤)です。頚部や体部の腺がんでは、II-IVA期(膀胱浸潤)となっています。

一般に、子宮頚がんの放射線治療は、子宮腔内の小線源治療(放射線を出す小さな密封線源を子宮内に挿入する治療)と骨盤の外部照射(体外からの治療)を組合せて行ないます。一方の重粒子線治療では、小線源治療は用いておらず、外部照射のみです。外部照射は1日1回、週4日間の治療を合計20回行ないます。治療期間は、通常の放射線治療に比べて2〜3週短い5週間で終了します。照射方法は、はじめは骨盤のリンパ節領域を含めて広く治療しますが、次第に子宮の病巣に対して標的を絞り込んでいき、最後に病巣中心部に高線量を投与するように計画されています。
現在までに行なわれてきた第I/II相試験では、安全性を確認するため少ない線量から治療が開始され、その後、腫瘍に対する有効性をみながら数段階で線量増加を行なうという形式をとってきました。

 これまでの治療結果

これまでの経過観察では、皮膚や膀胱に重篤な有害反応は出現していません。一般の放射線治療では、照射期間中下痢になることが多いのですが、重粒子線治療では、下痢はほとんど起こりません。初期の臨床試験において、段階的線量増加に伴い高線量で照射された患者さんの中から、腸管に穿孔を生じて手術を要した方が8名いました。これらの患者さんは腫瘍が進行しており、消化管と腫瘍が近接していたため、結果的に腸管の高線量投与が避けられなかったことが主な原因と考えられました。幸いなことに、1名を除いて局所制御が得られ、その後長期間にわたりご健在です。腸管の安全線量を決定するとともに、照射方法を改善するなどした結果、今では同様の有害反応は認められなくなりました。

これまで重粒子線治療を受けた患者さんは、中央値で6〜7cm大と大きな腫瘍が多く、様々な線量で治療されてきました。子宮頚部扁平上皮がんにおける、治療線量毎の腫瘍の制御を検討してみると、線量増加とともに成績は向上し、72.8GyE群では86%が制御されています。また、従来の放射線治療では局所制御が難しいとされるIVA期(膀胱浸潤)でも、重粒子線治療を受けた方では63%で制御が得られています。

子宮頸部腺がんや体部腺がんでも、扁平上皮がんの場合と同様、線量の増加とともに成績が向上しています。68.0GyE群では頸部腺がんの70%、体部腺がんの100%が制御されています。子宮病巣が重粒子線治療で制御しきれない場合には、手術を行なうこともあります。このように、腺がん症例でも良好な成績が得られているのは、線量集中性の良さだけでなく、生物学的に殺細胞効果が高いという利点が生かされたためと考えています。

(重粒子医科学センター病院 大野 達也,加藤 真吾)

治療前 (矢印の範囲が腫瘍) 治療後 (腫瘍は消失)
治療前 (矢印の範囲が腫瘍) 治療後 (腫瘍は消失)

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