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重粒子線治療の高度先進医療スタート!

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ほぼ10年に及ぶ大規模な臨床試験の結果、その抗腫瘍効果や安全性が確認され、 2003年11月1日から放医研の重粒子線がん治療が『高度先進医療』として厚生労働省から承認され、研究段階から一般医療へ普及のスタートを遂げた。


重粒子線治療が高度先進医療として承認 / 辻井 博彦

この度、昨年4月より厚生労働省に承認申請を行っていた重粒子線治療(註1) が、「固形がんに対する重粒子線治療」という名称で高度先進医療の承認を得ることが出来ました。これを受けて重粒子医科学センターでは、平成15年11月1日より重粒子線による高度先進医療を実施しています。高度先進医療とは、新しい医療技術の出現や医療に対するニーズの多様化に対応して、先進的な医療技術と一般の保険診療の調整を図るとの主旨のもと「特定承認保険医療機関」で実施することが許された医療のことです。

高度先進医療の実施にともない、その対象となった患者さんからは、通常の医療費 (健康保険自己負担分)に加えて、高度先進医療のための特別料金(自己負担314万円)を負担していただくことになっています。なお、放医研の高度先進医療に係る費用計算は、重粒子線加速装置(通称HIMAC)の建設費、人件費、消耗治療材料、加速器の運転費(水・光熱費など)や維持管理費などを勘案して行いました。

さて、これまで重粒子線治療はすべて臨床試験として施行され、副作用(註2)や抗腫瘍効果 (註3)あるいは短期照射法(註4)などについて明らかにして来ましたが、実際に高度先進医療に移行するためには、所定の手順を踏む必要があります。そこで、重粒子線ネットワーク会議に諮った結果、個々の疾患を臨床試験の進行状況から下の表のごとく4グループに分け、この順で高度先進医療に移行することにしました。

まず、第1グループについて、各臨床研究班に諮って臨床試験としての患者登録終了の手続きを行い、11月より高度先進医療に移行しました。第2、3グループについては、来年2月または8月の各臨床研究班会議で、登録終了あるいは高度先進医療への移行につき検討してもらう予定です。第4グループの疾患については、治療成績のさらなる向上を目指して臨床試験を継続することにしていますが、これも放医研に課せられた大事な責務だと思っています。

高度先進医療の実施に当っては、これまでの臨床試験(註5)同様、倫理的にも科学的にも充分な体制のもとで行わなければなりません。このために、高度先進医療に係わる事項の審査や諸条件の整備など、適正かつ効果的な運用を図ることを目的として、高度先進医療内部審査専門委員会を置き、透明性を確保することとしています。

(重粒子医科学センター長)

高度先進医療移行に関する一覧 (平成15年10月)

グループ 概要 対象プロトコール
1 線量増加試験を終了、第II相試験中のもの、および安全性が確認されたもの 頭頸部III
頭頸部V
前立腺III
骨・軟部II
肺V(局所進行肺癌)
総合I*(・身体各部の局所限局性の進行がん・転移又は再発がんで局所に限局しているもの)
2 今年度中に線量増加試験を終了可能なもの 頭蓋底

涙腺
直腸術後
肺VII(縦隔リンパ節転移)
肺III(肺門近接)
3 第II相試験を既に終了あるいは終了可能だが、より短期間での治療を目指して線量増加試験中もの 肺IV(I期肺癌)9回照射
肺VI(I期肺癌)4回照射
肺VIII(I期肺癌)1回照射
肝III4回照射
肝IV2回照射
4 線量増加試験中で、試験を継続することが必要と判断されるもの 中枢II
膵II術前
膵III根治
頭頸部IV骨軟部
子宮III
子宮腺癌
総合II(症例数がまだ不足しているもの)

*これまでに安全性が確認された線量分割法での治療が応用可能なもの

(註1)
放医研の重粒子線治療は炭素イオン線を用いていますが、その特徴は2つあります。第1は、一般のがん治療に用いられているX線に比べて、体内で高線量域(ブラックピークという)を形成する性質を有しているため、がん病巣にのみ狙いを定めて照射することが可能なことです。第2は、ブラックピーク部の生物学的効果(細胞致死作用)がX線より2〜3倍高いことです。陽子線との比較では、第1の線量集中性はほぼ同じですが、第2の生物学的効果は、重粒子線の方が2〜3倍高くなります。都合の良いことに、がんの種類によってこの値は3倍以上であるとされています。これは、重粒子線の体内飛跡に沿って生じる電離密度、つまり単位長さ当たりに与えるエネルギー量(LETという)が、陽子線よりも大きいからです。ちなみに、陽子線の生物学的効果はX線とほぼ同じです。従って、重粒子線の特徴は、陽子線のように単に物理的な線量集中性が優れているだけでなく、体内深部に行くほど生物効果が大きくなるという点で、そのぶん副作用が少なく、X線や陽子線に抵抗性を示す難治性がんにも高い効果が期待できることになります。

(註2)
重粒子線臨床試験は、まず重粒子線の副作用または安全性をみるための線量増加試験を行いました。その結果、初期の試験において高線量で照射された患者の中から、消化管や膀胱・尿道に高度の狭窄・潰瘍または穿孔を生じて手術を要する患者が数名いました。消化管の有害反応については、その後、消化管の安全線量について検討し、照射法を改善するなどした結果、同様の副作用は殆ど認められなくなりました。

(註3)
これまでの経験から、重粒子線が有効ながんはほぼすべての種類の固形がんに効くこと分かりましたが、今後治療対象とする疾患は、主に、病巣が局所にとどまっているもので、(1)組織型では、X線や陽子線が比較的効きにくいとされる腺癌系や肉腫系 (悪性黒色腫、骨・軟部肉腫など)、(2)発生部位では、頭頸部、肺、肝、前立腺、骨・軟部組織など、及び(3)周辺に重要器官(眼、脊髄、消化管など)があり、比較的大きくて、不規則な形をした腫瘍、などです。但し、病巣が消化管そのもの、あるいは消化管に浸潤したものは他の治療法と組み合わせる必要があると考えています。

(註4)
重粒子線を用いると、理論的に治療を短期間に終えることが可能です。事実、早期肺癌や肝がんは1、2回の照射で済みますし、また照射回数が16〜20回と比較的長い前立腺がんでも、X線や陽子線治療の照射回数(約40回)と比べると約1/2で済んでいます。現在、患者さん一人当りの治療回数は平均12回位で、約3週間で終了しています。このことは、重粒子線治療が他の治療法よりも多くの患者さんを治療出来ることを意味しています。

(註5)
放医研は、1994年(平成6年)6月、重粒子線によるがん治療臨床試験を開始しましたが、それ以来終止一貫して、所内外の有識者からなる各種委員会のもとで実施する体制をとっています。重粒子線治療プロトコールはすべて、疾患別分科会と計画部会で作成された後、倫理委員会の審議を経て承認されたものです。治療結果は、定期的に疾患別臨床研究班と評価部会の審議を経て、本臨床試験の最高機関である「重粒子線治療ネットワーク会議」に報告、公開されてきました。これまでに作成されたプロトコールは全部で約40ありますが、現在、このうちの約半数のプロトコールに基づいた臨床試験が行われています。これまでに登録された患者さんは、2003年8月時点で1,600人に上ります。


重粒子線がん治療の高度先進医療開始に当たって / 佐々木 康人

対がん10ヶ年総合戦略(1984-1993年)の国家プロジェクトの一環として建設された加速器HIMAC(Heavy Ion Medical Accelerator in Chiba)は1993年に完成した。 この装置は重粒子線がん治療を目的とした医療用大型加速器として世界初のものであった。

がん克服新10ヶ年戦略(1994-2003年)のもとで翌1994年6月より、加速した炭素イオンを用いるがん治療臨床試験が始められた。被験者の安全性に十二分に配慮し、説明と同意(IC)の上自主的に参加するという倫理性の高い臨床試験体制は、今日では当然といえ、当時としては極めて先進的であった。多数の所外の専門家の参画を得て、客観性、科学性の高いデータ集積を可能とする体制を整えての船出であった。その後の社会の動向や生命倫理の進展に従って改良を加えはしたが、本質的には頭初の方針が継続されてきた。ほぼ10年間に及ぶ大規模な臨床試験が無事円滑に進行したことに感謝したい。所内外の多数の方々のご努力、ご支援、ご協力の賜物である。

2002年4月までに登録された約1,200症例の成績に基づき、厚生労働省に申請していたところ、このたび高度先進医療「固形がんに対する重粒子線治療」が承認された。平成15年11月1日より重粒子線がん治療を高度先進医療として実施することになった。これによりわが国の重粒子線がん治療は新しい段階に移行することになる。臨床試験の枠組みの中で手続きを踏んで、臨床試験修了の了承を得つつ順次高度先進医療に移行する。移行後も適応決定、効果判定を組織的に実施し、多数例についての治療成績を公表していくつもりである。また、安全性、有効性の評価ができていない新しい対象疾患や新規技術の応用については臨床試験を存続させる。

314万円の患者負担を将来軽減するには、健保収載により3割負担を実現する必要がある。そのためには普及性が重要な要素となる。小型普及型の照射装置の開発研究に一層拍車をかける必要を痛感している。予算措置も含めて関係各界からのご推奨を期待している。設置計画の支援や人材の養成の推進にも努力を傾注する。

がん克服新10ヶ年戦略の最終年に医療の枠組みの中で重粒子線がん治療が実現できたことは大きな喜びである。協力された被験者の皆様に感謝し、臨床試験を推進された多数の方々のご尽力に御礼申し上げる。

次の10ヶ年計画の中で、治療技術の高度化と改善、治療の普及、重粒子線生物学の進展を期しているので引き続きご支援、ご協力をお願いしたい。

(放医研理事長)


放射線医学総合研究所・重粒子線がん治療の「高度先進医療」承認に際して / 平尾 泰男

10年目を迎えた重粒子線がん治療の臨床試験も、高度先進医療の承認が下り、ようやく重要なマイルストーンを越えたとの感慨一入です。確実に成果を積み上げつつ、この長丁場をよく耐え抜いて下さったことを、関係者ご一同に対して心から感謝申し上げます。

思い返しますと、私と放医研との関わりは35年も昔、速中性子線がん治療のためのサイクロトロン導入のときに始まります。やがて70年代末に始まった日米協同がん研究プログラムの高LET分科会で、梅垣洋一郎先生の主導された速中性子線治療の成果が日本の面子をようやく保ったと記憶しています。その一連の会合で私はがん治療用重イオン加速器の提案をしましたが、当時はそれを放医研でとは考えていませんでした。しかし、その優れた線量分布の故に、重イオン線こそ次世代治療線源と明快に断定されたのは梅垣先生でした。その実現の目処が立たないままに、せめて陽子線でも、と高エネルギー物理学研究所の陽子線の医学利用実現に努力をされたのも先生でした。やがて1983年「対がん10ヵ年総合戦略」の一環で、新治療法の開発として重粒子線がん治療装置の開発と名付けたプロジェクトが採り上げられ、放医研で実施する運びとなりました。3年間の設計期間を経てHIMACと名付けた装置の建設が1987年から開始され、10ヵ年総合戦略の最終年度1993年11月に予定通り完成、施設安全審査を経て1994年6月から臨床試験開始となりました。

続いて立てられた「がん克服新10ヵ年総合戦略」の中で、HIMACの炭素線を用いた臨床試験は今日まで約10年に亘って行われています。その間、殆ど故障なく安定に炭素線を医療に提供し続け、世界的にも稀な高い安定性を示したことが、先ず特筆されるべきです。この点では装置の運転、維持、改良に努力し続けられた関係諸氏に深く感謝しています。

臨床試験開始に先立って1991年3月より設置し、全国の専門家諸先生を集めた重粒子線治療ネットワーク会議、その下に置いた計画部会、倫理委員会等に於いて、慎重を極めた討議が重ねられました。今日の臨床成果の基礎はこの組織体制に負うところが大と思います。所内の医療関係諸氏にとっては、この組織の要請に応えるには想像を超えるご苦労があったと拝察しています。しかし、そのご苦労の甲斐あって、今日素晴らしい成果でこの10年間が締め括られようとしています。PETを含む高度診断に支えられて、一度の医療事故もなく今般の承認に到達することができて本当に良かったと今更ながら感激しています。

さて、この長丁場のプロジェクトも、新しいフェーズに入ろうとしています。安全性と有効性を確立して医療に移行させる部位別対象症例を順次拡張するのは当然でしょうが、放医研としては何をなすべきか今一度考える重要なマイルストーンに立っています。そこにはなすべき課題が山積していると思われます。その第一は、この治療法の普及展開でしょう。それには先ず装置の小型化が必須の命題です。またこの治療法の情報提供にも一層の努力、工夫が必要と感じられます。一方、放医研自身の現施設の機能は、その一部が臨床に活用されたに過ぎません。残された課題には、水平・垂直二門同時照射、陽電子放出核ビーム・スポットスキャニング、炭素線以外の重イオン線等々の多岐に亘る臨床試験があります。また、臨床試験を通して示唆されている生物学的実験研究も多々あると思います。

このプロジェクトの第一段階を成功とするなら、その最大の要因は治療、診断、情報処理、生物、物理工学と極めて多岐に亘る分野が所の内外の枠を越えて、一つの目標に向かって協力したことに尽きると思います。放医研にして初めて成し得た快挙ではなかったかと思います。この経験を活かして、放医研の更なる発展を期待しております。

あらためて、ご参加いただいた被験患者の皆様、ご指導ご協力いただいた内外の関係諸氏に、そして様々の要請に応えて下さった産業界に、今一度心からの感謝を申し上げます。

(前放医研所長)


放医研重粒子線治療の「高度先進医療」承認に寄せて / 梅垣 洋一郎

2003年11月から放医研重粒子線治療が「高度先進医療」として承認されましたことに、1975年の速中性子線治療の開始から、重粒子線治療の実現に至るまで、ひたすら努力を続けてきたチームの一員として心からお祝いを申し上げます。

私は1950年から半世紀の間がん治療医として働きましたが、その間常に求め続けたのは、確実にがんを治せること、患者の負担を軽くし治療による後遺症を極小に抑えること、そして医療事故を起こさないことでした。

放医研の速中性子線治療は、難治のがんを高LET放射線で死滅させようという発想で開始されましたが、副作用が強いため充分な効果が挙げられず、より線量分布のよい重粒子線治療による精密治療でないと効果が期待できないという結論に到達しました。

1991年3月13日に開催された第一回の重粒子線治療ネットワーク会議で私は挨拶しましたが、その中で、その年の1月に始まった湾岸戦争で見せられたハイテク誘導ピンポイント爆撃の状況はまさに重粒子線治療が目指している目標であると申しました。1994年に開始された10年にわたる臨床試験の結果として、重粒子線治療はこの目標に到達し、その治療成績のすばらしさから理想的な治療法であることが確認されました。

確実にがんを治し、副作用を防止するためには、先ず標的となるがん細胞の性質とその所在を確認しなくてはなりませんが、この面でも放医研はX線CT、MRI、PET等の画像診断の進歩に多大の貢献をしました。中でもPETは治療効果の確認と、治療後の再発・転移の早期発見に絶大な貢献をして、治療医と患者の心理を和らげ、信頼を高めました。

がん細胞の所在を確認した上で、必要な部位だけに放射線を集中する技術は、加速器による純度の高いビーム形成、画像診断との連携、生きている身体の動きへの対応、さらには実際にビームが到達した位置の確認等の高度の技術の集積で達成されました。中でもビーム到達位置つまり照射された領域の確認は、行われた治療の確実な証拠を残すもので、治療成績の解析に最重要のデータになりますが、実用化の可能性のあるのは重粒子線治療だけです。この技術が完成すれば重粒子線治療はもっとも良心的ながん治療になることでしょう。

重粒子線治療ではがんが治癒する確率だけでなく、起こり得る後遺症の発生確率も計算できて、治療後の管理に役立っています。このようなデータはすべて病歴に記録され、医療スタッフだけでなく、必要な部分は患者と共有されています。情報の完全な記録と共有は医療事故の防止にとってもっとも大切なことですが、放射線治療以外の治療ではきわめて難しい問題であります。10年間の重粒子線治療臨床試験を通じて、医療事故が一度もなかったことは、臨床試験としては驚くべきことで、放医研の医療情報管理の水準が高かったことが事故防止に役立っていると私は思います。

重粒子線治療の費用は一見高価なように見えますが、高い効果と安全性そして後遺症がきわめて少ないことを考慮すれば費用経済効果の面でも、将来もっとも優れたがん治療法になると私は確信しています。放医研がさらに努力を重ねて世界の重粒子線治療センターとして貢献されることを期待します。

(重粒子線ネットワーク治療会議委員)


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