がん治療最前線

シリーズ28
末梢型I期非小細胞肺癌に対する重粒子線治療
照射法の改良-1回(連続4門)照射法-


わが国の悪性腫瘍のうちの死亡原因の第一位が肺がんとなってから久しいが、さらに患者数は増加する傾向にあり、がん統計白書(篠原出版新社、1999)によると2015年には倍増し、男女合わせて約13万5千人が肺がんに罹患するとされている。


はじめに

このように増加の一途を辿っている肺がんの治療法としてもっとも確実なものは外科療法であるが、局所的には根治が期待できるI期肺がんであっても低肺機能やその他の理由により外科療法が適用できない場合がしばしば認められる。実際に、わが国の国立療養所肺がん研究会のデータによると2001年までの11年間に登録された肺がん21,476症例のうちI期非小細胞がんは28.4%であり、さらにそのうちの11.3%、つまり全体の3.2%は何らかの理由で外科療法を受けていない症例であったとされている。現在の肺がんの罹患数は1年間に6万人を超えるとされているが、前述の全国国立療養所の比率を適応すると、この約6万人のうちI期の非小細胞肺がんであっても手術を受けていない患者数が毎年1,900人以上あるものと推定される。このようなI期の非小細胞肺がんであっても手術を受けられない、あるいは受けたくない症例に対する(手術に代わる)根治療法として、われわれは放医研において重粒子(炭素イオン)線治療を開発しているのである。今回は末梢型非小細胞肺がんに対する重粒子線治療における照射方法の改良について述べる。

末梢型I期非小細胞肺がんに対する重粒子(炭素イオン)線治療

有効性と低侵襲性を兼ね備えた新しい治療法としての炭素イオン線治療を確立するために照射方法の改良は重要な課題である。そこで放医研では多門照射を用いながら、照射回数、一回線量ともに減少させる照射法の改良を続けてきている。肺野末梢領域のI期非小細胞肺がんに対する重粒子線の照射法は従来のプロトコールでは総線量72.0GyE、9回(3週)分割照射であったが、3年6ヶ月の観察で局制御率はほぼ100%、累積生存率(原病死を基準とする)が約85%というよい成績を得ている。写真1にこのプロトコールで治療した肺野末梢型肺がん症例の臨床経過を提示する。そこから発展して新プロトコールでは総線量52.8GyE(cT1N0M0)あるいは60.0GyE(cT2N0M0)の4回(1週)分割照射法となり、抗腫瘍効果は維持しつつ照射線量および分割回数の低減による照射を行っており、局所制御率(重粒子線治療を行った原発巣からの再増殖が認められない比率)は95%以上とよい結果を得ている。さらに2003年4月からは最新プロトコールとなって総線量を28.0GyEと低減した1回(連続4門)照射法の試験段階に至っている(写真2)。この照射法では一門あたりの線量は7.0GyEとなっており、正常組織の障害も可能な限り低減できるものと考えられる。この照射法は一回限りの照射であるため、従来から行っている最大呼気位にあわせて照射を行う呼吸同期照射法(Int J Radiation Oncolgy Biol Phys.56:121-125, 2003)の果たす役割はさらに大きく、確実性をさらに高めた慎重な照射が要求される。

終わりに

末梢型I期非小細胞がんに対する重粒子線治療は一回照射、すなわちradio-surgeryとも呼べる照射法が実現される段階に到達したが、この照射法は炭素イオンの加速に始まり診断、固定具作製、治療計画を経て照射にいたる各段階で、そこに携わる多くの職員の正確な業務と緊密な連携があってはじめて実現できるのであることをご報告し、感謝するしだいである。今後より一層の発展に向けて症例を重ねてゆきたい。

写真1

写真1:肺がん症例(80歳、女性)の重粒子線治療前後の経過。右上葉肺腺がん(cT1N0M0)に対し、1998年2月3日〜2月20日に総線量79.8GyE(8.8GyE×9回、4門)の炭素イオン線照射を行った。写真右上は線量分布を示しており、4門(4方向)の合計で、最内側の赤い線内が総線量の96%以上となっている。写真下段は照射後1年9ヵ月と5年1ヶ月のCTであるが、局所には腫瘍陰影に一致して硬化像が認められるものの再発はなく、周囲正常肺の線維化像も軽度である。(癌の臨床49、2003印刷中より引用)

写真2

写真2:I期末梢肺癌4に対する炭素イオン線治療。写真のごとく左右20度程度回転した体位をとり、それぞれ垂直および水平2方向の照射を行う1回(4門連続)照射法。(放射線科学、印刷中より引用)

(重粒子医科学センター病院 治療課第二治療室長 馬場 雅行)


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