研究レポート

わが国の屋内ラドン濃度と宇宙線線量


緊急被ばく医療研究センター長 藤元憲三

自然放射線レベルに関して、「なんで環境中の自然放射線のレベルを計測するのか」といった質問をよく受ける元々のレベルを把握しておかなければ、将来汚染が発生したとき汚染したか否かわからないので、地域差を見つけ出し、その原因を究明するためである。しかし、これまで大地放射線レベル以外は公表されて来なかった。そこで、ラドンの屋内濃度と宇宙線線量の市町村レベルについて解説したい。


自然放射線レベルを求めていると、次のような質問をよく受ける。「環境中の自然放射線のレベル、なんでそんなもの計るの。」「山の高さはどうして計るのと問いかけるのと同じではないですか。自然の状態、現状を理解するためですやん。」しかし、この答えだけではその意義を理解してはもらえない。IAEAにおいてさえ、これだけの答えでは納得されず、ラドン問題は日陰者にされてきた経緯がある。なにかもっと高尚な理由付けをしなければならない。知恵を絞って様々な意義付けがなされる。元々のレベルを把握しておかなければ、将来汚染が発生したとき汚染したか否かわからないではないか。地域差を見つけ出し、その原因を究明するためである。人工放射線からの線量を理解するうえの指標とする(現在ICRP委員長提唱のスケールの基準となっている)。高線量域を見出し、無駄な被ばくを低減する。放射線レベルの地域差を利用して放射線の影響を易学的に検討するなどである。

国連科学委員会はこの点、一番の理解者であり、自然放射線レベルに関する情報を5〜6年毎に見直しを行い、報告書として纏めている。とにかく、このような理由付けの下に各国では自然放射線レベルの調査がなされている。わが国おいても出典はすべて同一1,2であるが大地からの放射線レベルはさまざまな出版物に引用されている。ここでは、それ以外の成分、これまで余り公表されて来なかった。ラドンの屋内濃度と宇宙線線量の市町村分布について記載する。

ラドンの屋内濃度はUFOタイプのパッシブラドン濃度測定器による全国調査結果(中央値は12 Bq m-3 )3もあるが測定家屋数が899軒と限られているため、ここではカールスルーエタイプのパッシブラドン濃度測定器による結果(中央値は16 Bq m-3)4を示す。この測定器は喚起率が高いためトロンの影響を受けているかもしれないが、5,717軒という測定家屋数も考慮すると全国的な傾向を知るうえには充分なものである。測定は年間の屋内平均ラドン濃度を求めるため、1軒の家屋に2個の測定器を用いて引き続き6ヶ月間の測定を2回行った。図1はこのようにして求めた家屋ごとの年間平均ラドン濃度を市町村ごとに平均したものである。但し、協力頂いた家屋は高校の理科担当の先生宅であるため、市町村ごとの家屋構造割合を正確に反映しておらず、サンプリングによる偏りが生じている。しかしながら、大地放射線のレベルで見出されている西高東低の傾向は明らかに読み取ることが出来る。屋内ラドン濃度は大地中のウラン濃度を反映していることが見て取れる。また、幸いなことにわが国の屋内ラドン濃度の分布は諸外国に比べ低く、米国の環境庁のアクションレベル150 Bq m-3を超える家屋の割合は0.4%に過ぎない。

つぎに、図2に宇宙線からの線量評価5を示す。これは日本全国3,372ヶ所の市町村役場の緯度、経度、高度をもとに宇宙線の各成分の寄与を計算したものである。中性子成分についてはICRP Publ. 60の放射線荷重係数を用いている。わが国の宇宙線線量の平均は35 nSv h-1である。宇宙線線量には緯度と高度による変化があり、沖縄から北海道にかけての一般的な緯度効果による線量増加傾向のうえに、高度による線量増加がより強調される形で付け加えられている。県としては長野県が一番宇宙線線量の最も高い地域に(44 nSv h-1)、市町村としては群馬県草津町が一番高い線量(59 nSv h-1)となっている。

これら2つの結果と共に屋外のラドン濃度、大地放射線からの線量、家屋の遮蔽効果、居住係数(家屋内に居る割合)などを考慮し、更に、体内のカリウムおよび飲食品からの線量寄与を加えれば、自然放射線からの年間線量を求めることが出来る。

図1 図2
図1:わが国の屋内ラドン濃度
(1,390市町村)
図2:わが国の宇宙線からの線量
(3,372市町村)

< 文献 >
1. S. Abe, K. Fujitaka, et al.; Extensive Field Survey of Natural Radiation in Japan, J. Nucl. Sci. & Tech. 18, 21-45 (1981).
2. 阿部; わが国における自然の空間放射線分布の測定 保健物理学会誌 17, 169-193 (1982).
3. T. Sanada, K. Fujimoto, et al.; Measurement of Nationwide Indoor Rn Concentration in Japan, J. Environ. Radioactivity, 45, 129-137(1999).
4. 藤元、小林等; 屋内ラドン濃度全国調査 保健物理学会誌 32, 41-51 (1997).
5. 藤元、K. O'Brien; わが国における宇宙線からの線量評価 保健物理学会誌 37, 325-334 (2002).

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