がん治療最前線

シリーズ26
膵臓がん

-画期的な局所療法として注目される重粒子線治療-


膵臓は英語ではpancreasといいますが、語元はギリシア語のpan(すべて)とkreas(肉)からきております。膵臓は上腹部にあり、胃のうしろに位置して前を腹膜に被われております。左右に細長い器官で、右から頭部・体部・尾部に分けられております。


膵臓のはたらき

膵臓には主に二つのはたらきがあります。ひとつは外分泌機能であり消化機能を司っています。外分泌腺からの分泌液が膵液(1日500-800ml分泌)となって膵菅を通って十二指腸へと分泌されます。膵液のなかにはトリプシン・アミラーゼなどの消化酵素が含まれております。もう一つは内分泌機能であり、主に血糖の調節を行っています。内分泌腺といって分泌液がホルモンとして分泌され、これが血液やリンパを介して運ばれます。膵臓の内分泌腺は膵島またはランゲルハンス島とよばれており、膵尾部におおく存在します。直径は200-300μm。この膵島細胞にはA細胞(グルカゴン)・B細胞(インスリン)・D細胞(ソマトスタチン)の3種類の細胞があって、それぞれホルモンを分泌しております。膵臓全体の約1-2%を占めます。

膵がん

通常膵癌と呼ばれるものは外分泌腺由来である膵管上皮から発生します。その割合は80-90%を占め、残りは腺房細胞がん、島細胞腫瘍・がんなどです。
膵がんの死亡率は肺および大腸がんなどとともに近年増加の傾向を示し、最近では1950年当時の20倍を超える増加を示し、1999年には全がん死亡数の6.4%を占め第5位となっています。膵がん死亡の増加の原因は人口の高齢化したことが最大の原因ですが、膵がんに対する有効なスクリーニング検査法がなく、高危険群の設定が難しいことなども挙げられます。膵がんは症状が表れた時には手遅れになっていることが多く、早期発見のためには人間ドックや検診を積極的に受け血液検査でアミラーゼが高い、超音波検査で主膵管が太い、などといわれたら信頼できる施設で精密検査を受けることが大切です。

膵がんの治療には、外科治療、化学療法、放射線治療、対症療法があります。膵がんの治療は手術が原則ですが、切除可能な症例は4割程度に過ぎず、また切除できた症例の5年生存率は10-20%と満足すべき数値とはいえません。また、手術不能の場合には抗がん剤による化学療法、放射線治療、化学療法と放射線治療の併用療法、膵がんに対しては直接治療を行わず黄疸や疼痛などの症状を和らげる対症療法が選択されます。

化学療法では近年5FUに代わりGemcitabine(GM)が進行膵がんに対する第一選択の抗がん剤と位置づけられています。GMは新しいdeoxycitidine誘導体であり、膵がんを含む様々な固形がんに幅広く抗腫瘍効果を示しています。局所進行膵がんに対する5FUとの無作為化比較試験ではGMは奏功率5.4%で50%生存期間が5.65月であり、5FUに比べて有意に優れてはいましたが満足すべき数字とはいえず、現在も治療成績向上のため他の抗癌剤等との併用が試みられています。

放射線療法は総線量60-70Gyでおこなわれています。しかし、治療成績は不良で2年生存率10%前後、平均生存月数4-12か月程度です。現在、手術不可能な局所進行膵癌に対する標準的治療法は5-FUなどを併用する放射線化学療法ですが、50%生存期間が8-10か月と満足すべき結果ではなく、種々の試みが行われてきましたが、5FUを併用する従来の方法に比べて明らかに優れた成績を示す放射線化学療法は確立していないのが現状です。一方、GMは基礎的実験において膵がんや他の固形がんにおいて放射線増感作用を有することが示されており、現在、放射線との併用療法に関する臨床試験が世界中で施行されています。比較的高い抗腫瘍効果が期待される一方、高率に発生する正常組織障害とくに血液・消化器毒性が臨床上大きな問題となっています。

膵臓がんに対する重粒子線治療は、術前炭素イオン線治療が2000年6月から、手術不能な局所進行膵がんに対しては2003年4月からphase I/II 臨床試験が開始されました。術前炭素イオン線治療は22人が治療を受けましたが、局所再発に関しては、CT・PETによる画像診断や剖検による検索で、手術不能例も含めてこれまでのところ1例もみられていません。画期的な局所療法として注目されています。

炭素イオン線治療前後の画像

図:炭素イオン線治療前後の画像
64才男性 膵体部癌 炭素イオン線48.0GyE照射後CA19-9は72.1U/mlから19.9に低下、CTでは腫瘍はやや縮小したがFDG-PETでは著明な集積の低下が認められた。
(a)照射前CT、(b)照射後CT、(c)照射前FDG-PET、(d)照射後FDG-PET

(重粒子医科学センタ-病院 山田 滋)


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