"No Pain, No Gain"〜かつては痛みや苦しみに耐え、がむしゃらに練習に励むのがスポーツの美学だった。グランドを何周もうさぎ跳びさせられたり、練習中はたとえ炎天下でも水分を摂ることは決して許されなかった。しかし今はまったく逆である。うさぎ跳びは足腰のトレーニング効果がほとんどないばかりでなく、下肢に極度の負担をかけるため絶対に避けるように指導されている。また、喉の乾きは体にとって極めて危険な脱水状態に陥っているシグナルなので、運動中でも積極的に水分を補給しなくてはならない。近年、スポーツの世界にも科学の波が押し寄せ、"No Brain, No Gain"〜賢く、効率良く苦しんで最大の結果を出す時代が到来した。
私が十数年来取り組んでいるボディビルの世界でも然り。かの映画俳優アーノルド・シュワルツェネッガーがボディビルダーとして活躍していた1970年代には練習量こそすべてだった。来る日も来る日も可能な限りジムで過ごし、ひたすら何時間も筋トレに励む。試合前には断食に近い減量が行われていた。しかし科学の目で見ると、筋トレは1日おきに集中的に1時間程度やれば十分で、それ以上だらだらとやってもあまり意味はなく、後は栄養と睡眠が筋肉を効率良く肥大させてくれる。一方、科学的な減量法は、脂肪の蓄積を促進するインスリンの分泌を最低限に抑えるために血糖値を一定に保つことが重要で、断食よりもむしろ1日6食以上少しずつ食べる方がよいと唱っている。もちろん摂取カロリーを消費カロリーより少なくするのは基本だが、1gあたり4kcalしかない糖質やタンパク質に対して、1gあたり9kcalもある脂質を中心に食事からカットするので、意外といろいろなものを食べることができ、空腹を感じることはほとんどない。
しかし、私も根性論を叩き込まれてきた世代である。果たして苦痛や空腹を以前ほど感じない現代の科学的肉体改造トレーニングで、数年来蓄積してきた脂肪に埋もれてしまっている私の板チョコのような腹筋は陽の目を見ることができるのであろうか。
(放射線安全研究センター レドックス制御研究グループ 中西郁夫)
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