研究レビュー

明らかになったビールによる放射線防護
-炭素イオン線への効果-



広島・長崎原爆被害者でアルコール飲料により原爆症の症状が軽減されたという話がある1)。ウクライナのチェルノブイリ原発事故でも同じような話がある。ロシアと同じように日本でも種類の多いアルコール、その中でもビールについての研究を進めている。

粒子線治療生物研究グループ連携大学院生
物部真奈美

粒子線治療生物研究グループ連携大学院生 物部真奈美

■なぜビールなのか?

日本では日本酒、ウクライナではウオッカ、その他の国でもその国に特徴的なお酒があるが、ビールは比較的どの国でも売られており、安価で手に入りやすい。またアルコール濃度も低いため飲みやすい。

■ビールは重粒子線にも効く

まずビールを飲むことで放射線障害を軽減できるかどうか確かめるため実際にビールを飲み数時間後に採血した血液にX線を照射した。すると飲酒前の血液と比較して飲酒後の血液に生じる染色体異常が減少していることが分かった。そしてこの効果はX線だけでなく炭素イオン線(50keV/μm)に対しても有効であることも分かった。エタノールにラジカル除去効果があることは以前から知られており2)その為かと考えたが、実験を進めていくうちにそれだけではないことが明らかになってきた(図1)3)。X線に対しては血液にビールを直接添加した方法で効果が一番高く、ビール中に有効成分があることが示唆された。一方、炭素イオン線に対しては、ビールやエタノールを直接添加する方法よりもビールを飲むことによる効果が一番高く、単純にエタノールやその他ビール成分そのものの直接的な効果ではないことが示唆された。

図1
図1飲酒後の血中エタノールと同じ濃度でビール、エタノールを添加

■放射線急性障害にも効果が認められた

次にビールが放射線急性障害を抑制できるかどうかマウスを使って調べた。その結果、ビールは放射線誘発骨髄死(図2)と腸管死(図3)に対して効果を示すことが明らかとなった。特にビールは炭素イオン線誘発骨髄死に対して有効であり、ビールに炭素イオン線障害に対する有効成分が含まれていることが示唆された。腸管死に対するビールの効果はビールとエタノールで同程度であるためエタノールによるものと考えられる。

ビールによる放射線防護の興味深い点は、高密度電離放射線である炭素イオン線に対しても効果があることである。高密度電離放射線に対する防護剤は存在するが比較的副作用の強いものが多いのが現状である。この発見は今後、副作用の少ない防護剤開発の手がかりとなる可能性がある。

図2
図2マウス放射線骨髄死に対ビールの防護作用
図3
図3マウス放射線腸管死に対するビールの防御作用

■今後の課題

ビールによる放射線防護はエタノール自身のラジカル除去活性だけでなくビールに含まれる様々な成分による複合効果と考えられる。現在ビール中の有効成分の一つを特定しているが、ビールにはまだまだたくさんの有効成分が含まれていると考えられる。従って今後は放射線防護活性を示すビール成分の特定と飲酒により生体に誘導される放射線防護活性の研究を進めていきたいと考えている。

Reference:
1)調来助、吉沢康雄 著「医師の証言 長崎原爆体験」(1982)
2)R.Roots and S.Okada: Int. J.Radiat. Biol. Relat. Stud. Phys. Chem. Med. 21, 329-342 (1972).
3)M.Monobe and K.Ando: J.Radiat. Res. 43, 237-245 (2002)

前のページへ戻る トップページへ戻る