がん治療最前線

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シリーズ20
子宮頸がんの放射線治療
アジアに地域における放医研の活動


子宮頸がんに対する治療は手術と放射線治療が主体で、治療法の選択は病気の進行状態、腫瘍の組織型、および年齢、合併症の有無等を考慮して総合的に決定されます。子宮頸がんの放射線治療には長い歴史があり、多くの改良が重ねられて今日に至っております。これまで放医研では子宮頸がんに対する放射線治療方法の確立に貢献してまいりました。さらに近年ではアジア各国の医療スタッフと協力して、アジア地域における子宮頸がんの放射線治療の改良も行っております。今回は子宮頸がんの放射線治療について解説するとともに、アジア地域における放医研の活動の一つをご紹介致します。


■子宮頸がんとは

子宮は小骨盤の中で膀胱の後、直腸の前にあり、下端は腟の上部につながっている臓器で、上方の体部と下方の頸部の二つに分けられます。子宮頸部と骨盤壁などとの間には靭帯があり、子宮を固定しています。子宮頸部から発生した癌を総称して子宮頸がんと呼んでいます。組織学的にみますと、子宮頸部の外子宮口付近では腟から連続する扁平上皮と子宮頸管にある腺上皮とが接して移行帯を形成していますが、この部分が子宮頸がんの発生母地とされ、扁平上皮癌と腺癌が発生します。図1は子宮頸がんの患者さんの骨盤部縦断面像(MRI)および横断面像(CT)で、子宮頸部には腫瘍が認められます。

図1子宮頸がん解剖
図1 子宮頸がん解剖

子宮頸がんの初期症状は不正性器出血で、性交時出血、月経間出血や月経過多で発症します。腫瘍が進行すると慢性出血による貧血や、腫瘍の圧迫による腰痛、下腹部痛などが生じます。

子宮頸がんの進行程度は0期からIV期までの5段階に分けられます。簡単にいいますと、0期は肉眼的には腫瘍は認められないが、ミクロのレベルで腫瘍が発生している状態で、検診の子宮頸部擦過細胞診で発見されることがあります。I期は癌が子宮頸部に肉眼的に認められるが子宮から外に出ていない状態です。II期は癌が腟や靭帯に沿って子宮外に進展しはじめた状態です。III期は癌が腟の下方ないし靭帯に沿って骨盤壁まで達した状態です。癌が子宮に隣接した膀胱や直腸に拡がるとIVa期、骨盤の外まで拡がるとIVb期となります。


■子宮頸がんの治療法

子宮頸がんの根治的治療法としては手術と放射線治療が主体であり、これらに化学療法が併用されることもあります。病期別に標準的な治療法を述べますと、0期およびI期の中でもごく小さい腫瘍に対しては、比較的小さな手術で切除可能ですので手術を優先します。

I期のやや大きめな腫瘍やII期の中の小さい腫瘍に対しては、手術ないし放射線治療が標準的な治療法であり、両者の間には治療成績に明らかな差はなく、どちらでも良好な治療成績が得られています。どちらの治療法を選択するかは、年齢、合併症の有無、解剖学的な状況(放射線治療、特に腔内照射(後述する)が可能か否か)、各施設の治療医の熟練程度などを考慮に入れて総合的に判断します。

II期の中の大きな腫瘍やIII期・IVa期といった局所進行癌においては、根治手術が困難となり、標準治療は放射線治療となります。また近年では化学療法の同時併用が推奨されています。


■子宮頸がんの放射線治療方法

子宮頸がんの放射線治療は、外部照射と腔内照射の併用を原則とします。

外部照射とはリニアック等の大型の放射線照射装置を用いて、体外から体内の癌病巣に放射線を照射して治療する方法です。外部照射の治療範囲は、子宮の病巣から腫瘍が進展する可能性のある腟・子宮周囲の靭帯・骨盤リンパ節までを含めた広い領域とします。

腔内照射とは子宮腔内および腟腔内に192Irや137Csなどの密封小線源を挿入し、子宮頸部の主病巣に高線量を照射する方法です。このような治療法を一般に密封小線源治療といい、Curie夫妻のラジウムの発見を機に20世紀初頭から行われております。子宮頸がんの腔内照射に関しても約90年間の歴史があり、その間に理想的な線源配置や線量分布について検討が重ねられ、また線源の挿入を補助するアプリケータにも改良がなされて今日に至っております。図2に外部照射の照射野および腔内照射の際のダミー線源を用いた線量計算用の照合写真を、図3に線量分布を示します。

外部照射 腔内照射
図2 子宮頸がんの放射線治療
図3 腔内照射
図2 子宮頸がんの放射線治療 図3 腔内照射

このように子宮頸がんの放射線治療においては、外部照射と腔内照射を上手に組みあわせることによって、正常組織の照射線量をできる限り低く抑えつつ、腫瘍に対して十分な線量を照射することが可能であります。このため他の腫瘍に比して、かなり進行した状態であっても比較的安全に根治性の高い治療を施行することができます。放医研ではこれまで子宮頸がんに対する最適な放射線治療方法の確立に貢献してきました。その成果は国内外で高く評価され、子宮頸がん取扱い規約の中の「標準治療」に集約され、国内に広く普及されております。


■アジア地域における放医研の活動

FNCA(Forum for Nuclear Cooperation in Asia:アジア原子力協力フォーラム)の「放射線の医学利用」の分野における放医研の活動についてご紹介致します。FNCAという組織は一言でいいますと、原子力の平和で安全な利用を目的に創られたアジアの国々による地域協力の枠組みです。日本の原子力委員会が近隣アジア諸国との原子力の分野での協力を効果的に推進するために、1990年に開催した「第1回アジア地域原子力協力国際会議」が前身となっています。その詳細についてはFNCAのホームページ(www.fnca.jp)をご参照下さい。

FNCAでは現在7つのプロジェクトが進行中であり、「放射線の医学利用」はその中の一つです。このプロジェクトは東から東南アジアの8カ国(中国、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、タイ、フィリピン、ベトナム)が参加して1993年に開始され、放医研はこのプロジェクトの発足当初から日本代表の一員として積極的に参加してきました。以後約10年間にわたって様々な活動を行ってきましたが、特に「アジア地域における進行期子宮頸癌に対する標準的な放射線治療方法の確立」は活動の柱でした。

わが国では子宮頸がんの死亡率は,癌検診の普及等によって減少傾向にありますが、東南〜南アジアでは依然として発生頻度、死亡率共に最も高い疾患の一つです。このため子宮頸がんに対する有効な治療法の確立は、アジア地域の公衆衛生にとって極めて重要な事項です。前述したように放射線治療は子宮頸がんに対する有効な治療法と考えられます。しかしアジア諸国間には、社会的・経済的・文化的に様々な違いがあり、放射線治療の方法や治療装置も大きく異なっています。このためFNCAの共同プロジェクトでは、アジア諸国の多くの病院で施行することができる標準的な放射線治療方法を確立することを第一目標としました。

欧米と日本の放射線治療の間には腔内照射のスケジュールや投与線量に違いがあり、欧米の方法をお手本としている国々との間では多くの議論がなされましたが、最終的に日本の治療方法を土台に標準化プロトコールが作成されました。そしてこのプロトコールに基づいて、本プロジェクトに参加した8カ国で1995年から1998年までの3年間に、臨床病期IIIb期の進行子宮頸がんの患者、合計210名を治療しました。

その結果、このプロトコールで定めた放射線治療はどの国においても大きな問題なく施行することが可能でした。放射線による有害事象は許容範囲内で、特に問題はありませんでした。治療成績は図4に示すとおりで、全患者の5年累積生存率は53.7%と日本の標準的な治療成績とほぼ同等であり、欧米の治療成績の報告と比較しても勝るとも劣らない良好な成績でありました。

図4 累積生存率(子宮頸がんIIIb 期 FNCA)
図4 累積生存率(子宮頸がんIIIb 期 FNCA)

以上の結果からFNCAの共同プロジェクトはその第一目標を達成し、参加各国ではこのプロトコールに沿った放射線治療が推奨されるようになりました。このことは子宮頸がんに対する日本の放射線治療がアジア諸国においても信頼を勝ち得たものと考えられます。


■子宮頸がんに対する化学放射線治療

進行した子宮頸がんの治療成績を改善するための試みとして、1990年代に放射線治療と化学療法を併用する臨床試験が欧米で行なわれました。その結果,放射線治療にシスプラチンという抗癌剤を用いた化学療法を同時に併用することで局所制御が高まり、生存率の向上も得られるという報告が相次いで出されました。これを受けて1999年に米国国立がん研究所は、「進行期子宮頸がんに対して放射線治療とシスプラチンを主体とする化学療法を同時併用することは生存率を有意に改善し、有効な治療法である。」とのアナウンスを出しました。このアナウンスがもたらした影響は大きく、欧米では現在は進行期子宮頸がんに対しては化学放射線治療が標準治療とされています。

しかし日本を含めたアジア地域において、本治療法が本当に有効であるかどうかについてはまだ十分に検証されておりません。欧米人とアジア人との間に体格差や抗癌剤に対する耐容性の違いがありまた放射線治療方法にも差異があるために、欧米の結果をそのまま受け入れることが出来ないからです。

FNCAの「放射線の医学利用」プロジェクトでは、進行期子宮頸がんに対する放射線治療方法の標準化に続く次のステップとして、アジアにおける標準的な化学放射線治療のあり方について検討に入っております。アジアでは欧米に比して子宮頸がんの患者数ははるかに多く、その検討結果は大きな意味を持つものと考えられます。

(重粒子医科学センター病院 加藤 真吾)


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