がん治療最前線

肺がん (2)


前回は肺癌について特に治療法に関するお話しをしました。このなかで、重粒子の利点は外科切除に匹敵する局所の治癒を期待できることと、治療による全身への侵襲が低いことであると述べました。高齢者や低肺機能(第1肺癌切除後の第2肺癌発生など)の患者さんは今後さらに増加してくると思われるので、これら手術のできない症例に対して、重粒子線治療は手術に替わる有効な治療法となるでしょう。それでは手術が可能な患者さんに対して、または I期以外の患者さんにとっても重粒子のほうが手術に優るということはあるでしょうか?

局所を確実に切除することで治癒が期待できる末梢の I期肺癌であれば、手術も胸腔鏡で比較的簡単に行えます、手術は短時間ですみ、入院期間も1週間程度です。ただし痛みがまったくないというわけではありませんから、同じ効果が得られるなら手術は受けたくないと考える患者さんもいるでしょう。また進行癌の場合、治療の時点ではすでに癌が局所にとどまっていないことも多く、残念ながら外科療法だけでは治療成績は上がりません。切除と同じ程度の局所治癒が得られるのなら、手術より重粒子線治療のほうが体力を損なうことが少ない分よいかもしれません。

さらに積極的に重粒子の方が良い適応と考えられる場合もあります。その1つは局所進行癌のなかでもパンコースト肺癌に代表されるような局所に進展していくわりに転移がないタイプのものです。発生部位が肺尖部であるため、血管や神経を損傷せずに完全に切除することが困難ですが、重粒子であれば計画された範囲には確実に治療が行えます。このような、解剖学的に手の入れにくい部位に正確に治療を行える利点は、もともと放射線治療の長所のひとつですが、重粒子の強力な効果はむしろ外科的な発想での治療戦略をも可能にするでしょう。現在ロボットによる手術の研究が実用化に向けて行われていますが、外科医がメスの延長として重粒子線治療を考える時代も来るのではないかと思います。

もう1つは肺門といわれる気管支の中枢に発生した肺癌(ほとんどが扁平上皮癌)です。癌細胞の体積としては、それほど大きくないのですが、特に中央部の太い気管支の場合、手術には高度の技術が要求され、術後の急性期には危険性も高いものとなります。重粒子は呼吸機能ももちろん保たれますし、手術よりもはるかに低侵襲である、という長所があります。写真は右の主気管支に発生した扁平上皮癌ですが、病変の距離が長いので、手術なら右肺全摘と気管分岐部の形成術が必要です。重粒子線治療できれいに治っています。これらの症例はそれほど数が多くはありませんが、重粒子線治療のよい適応になると考え、臨床試験が行われております。将来、重粒子線治療が第一選択の治療となることを目指して研究を続けております。

主気管支に発生した扁平上皮癌の治療を行った症例
主気管支に発生した扁平上皮癌の治療を行った症例

最後に診断について述べます。早期発見が重要なのはもちろんですが、質的診断がさらに重要となってきます。これは主に治療法の選択と、局所治療の場合には切除範囲(手術術式)、照射範囲の決定のためです。

治療法の決定には現在、画像診断が中心となっています。しかし臨床病期 I期の肺癌でも手術をしてみると25%近い症例で肺門や縦隔のリンパ節転移がみられます。また約5%にはすでに遠隔転移が存在しているといわれます。また病理病期 I期であっても2割以上の患者さんが5年以内に亡くなっています。このI期肺癌のなかでの予後の悪い集団を選別できれば、補助的な化学療法や免疫療法を追加することで治療成績を向上させるといった方法がとれるかもしれません。

このためには遺伝子診断が有用となります。生検材料の遺伝子情報から個々の癌の生物学的特質、すなわち浸潤やリンパ節転移、遠隔転移の程度が予測できればきめ細かい治療法の選択が可能となるでしょう。さらに薬剤や放射線に対する感受性の違いを遺伝子レベルで証明できれば治療法の選択にとどまらず遺伝子治療へも応用が期待できます。

病理組織学的な所見と臨床経過を照らし合わせて比較的予後の良い末梢の腺癌の存在が明らかになってきました。これを画像所見に戻って検討し、部分切除で治りうる肺癌がわかるようになってきています。さらに微小な浸潤範囲が決定できるようになれば、重粒子の治療にとっても大きな味方です。気管支の病変に対しても、気管支鏡だけでなく、気管支エコー、蛍光気管支鏡、拡大気管支鏡などの技術のおかげで診断精度は確実に上がると思われ、治療の成果に直結します。

以上、2回にわたってお話ししました。肺癌の治療成績はさらに向上するものと期待しています。

(重粒子医科学センター病院 山本 直敬)



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