乳癌に対する治療法としては、まず手術が前提になります。乳房温存療法の普及や各種粒子線治療の評判から、乳癌も放射線治療だけで治す時代に入ったと勘違いされている患者さんもおられますが、現在でも治癒を目指すためには手術が不可欠です。その理由として、主要な病巣を取り除くという治療上の意義に加え、局所の進展様式の診断やリンパ節転移の診断など手術による病理学的な情報も大切です。
以前はほとんど全ての患者さんに乳房全摘術が行われていましたが、治療法は時代とともに変遷し、現在では乳房温存療法が主体になっています。その予後は各種の癌の中では比較的良好で、最近の統計でみる5年生存率は、進行癌の患者さんを含めても75〜80%に達しています。
乳房全摘術が主流だった時代の放射線治療は、主として再発を予防する目的で用いられていました。現在でも、主に局所的に進行した患者さんを対象に同様の放射線治療が行われています。この場合の放射線治療の対象は主として乳腺周囲のリンパ節で、傍胸骨、鎖骨下、腋窩を含むカタカナの"ワ"の字のような照射野で治療します。全摘後の胸壁にがんが残っている可能性が高い場合には、温存療法の時と同じように胸壁の接線照射が行われることもあります。
温存手術後の放射線治療の対象は原則として残存乳腺です。図は、温存手術後に放射線治療を行った場合と行わなかった場合の局所再発の発生率を比較したものです。この図でも放射線治療の併用によって局所再発率は大きく低下しており、温存手術後には必ず放射線治療を行うのが一般的な考え方になっています。実際の照射に際しては、上述の胸壁接線照射と同様になるべく肺の照射体積が小さくなるように照射野を設定します。この照射野を従来のシミュレーションで設定するのは結構大変で、かつては放射線治療医の腕の見せ所の一つでした。
最近ではCTで治療計画が行われるようになり、照射野の設定も楽になりましたし、分布を見て条件の調整ができるので患者さんにもより良い治療を提供できるようになりました。
一方、照射室でのセットアップは今も昔も大変です。放射線治療にとって照射精度と再現性が極めて重要であることは乳癌の治療でも同じです。容易に形の変わる乳房を相手にして、毎回同じように照射をするのは決して簡単なことではありません。固定具の使用をはじめ、精度向上に向けての工夫もまた日進月歩ですが、最後は担当技師の腕と熱意というのが現状だと思います。
残存乳腺(または胸壁)の放射線治療の有害反応の主なものとしては、肺の放射線肺炎と皮膚炎があります。肺についてはCTで治療計画を行うようになってから効果的に肺の照射体積を小さくできるようになり、有害反応の発生率は低下の傾向にあります。しかし、重症化すると命にかかわる可能性のある副作用なので、治療医としては最も注意をはらう所です。皮膚は、ほとんどの患者さんで何らかの変化が生じます。軽度の発赤にとどまる方から、高度の発赤、びらんの形成までその程度は患者さんによりまちまちです。現在、その点に注目した遺伝子解析がフロンティア・グループを中心に実施されています。
リンパ節領域への照射の副作用としては肺以外に心臓、リンパ管や血管の循環障害(腕のむくみ)、腋窩の神経障害、肋骨の障害(病的骨折)などがあげられますが、いずれもそれほど頻度の高いものではありません。
乳癌の治療法の選択は主として担当する外科医によって決められています。比較的早期癌では乳房温存、進行癌では乳房全摘、という考え方が主流ですが、なかには進行癌でも温存療法を勧める外科医もいますし、温存手術後の放射線治療についてもあまり積極的でない先生もいるようです。治療法自体に変遷があって、なにがベストなのかが時代とともに変化し、今なお揺れている疾患の一つだといえます。担当医師として大切なことは、患者さんに信頼に足るエビデンス(裏付け)のある治療法を提供することと、そのエビデンスを患者さんにも十分に理解、納得していただいた上で治療する、ということだと思います。
乳癌の罹患率は年々増加傾向にあり、減少傾向にある胃癌に代わって女性では最も頻度の高い癌になろうとしています。乳癌発生の危険因子としては、独身女性で早い初潮、高齢者、さらに家族に乳癌の患者さんがいることや、一度乳癌で治療を受けた人に別の乳癌が発生することも多いことが知られています。ちなみに高齢者に多いとはいっても、日本での罹患率は45歳以上の年齢ではほとんど一定しており、医師として比較的若い患者さんに接することの多い疾患の一つでもあります。
乳癌検診は、癌検診の中でも死亡率低下につながる有益な検診であることが知られています。国立がんセンターの統計では、平成9年時点で年に300万人以上の女性が乳癌検診を受け、3,000人以上の被検者で乳癌が発見されています。早期発見されれば90%近い治癒率を期待できる疾患だけに、とりあえず一定の年齢を過ぎた女性は、検診を受けておいた方が良さそうです。

温存手術後に放射線治療を行った場合と行わなかった場合の局所再発の発生率の比較
(重粒子医科学センター病院 第2治療室 医長 辻 比呂志)
| エッセイ ぱるす No.1
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パキスタンに思う
○…パキスタン・イスラマバードと言えば、1年前に私が青年海外協力隊として、再赴任する時とは違い、現在ほとんどの人が、その場所を知っていることでしょう。
私も実際に住んで、人々と接する中で、パキスタンへのイメージが変わりました。もちろん、異なる人種・言語・宗教の中での生活は、楽しいことばかりではありませんでしたが、日本で報道されているパキスタンのニュースに、不公平を感じてしまいます。
○…夜明け前に、我が家の裏にあるモスクから、アザーンが聞こえてきます。これは、朝の礼拝が始まりますと言うお知らせですが、この時間に私が起きることはありません。7時頃に、備え付けのキングサイズのベットから起き出し、朝食を食べます。下に住んでいる大家の家からは、プラタと言われる全粒粉で作るパンのこうばしい匂いが漂ってきます。
そして、民族衣装のシャルワール・カミーズ(シャル・カミ)に着替えて、出勤します。
シャル・カミは、基本のパターンは一緒ですが、素材や柄、仕立て方によって雰囲気が変わります。当然、流行もあります。この1年余りで、私のシャル・カミは、20着を優に超えました。
○…家からバス停まで10分、バスに乗って病院まで10分。
国立の子供病院で月曜日から土曜日の8時〜14時まで勤務していました。
これからの季節は、そのまま買い物に出かけることもありますが、気温が45度を越える時期は、パキスタン人の真似をして、一度家に帰り、シャワーを浴びて昼寝をしていました。
夜は、テレビを見たり、メールや電話をしたりして、家で過ごすことが多かったです。
女性1人の夜間の外出は、危険なので、男性が一緒か送迎があるときには外出もしていました。不便と思われるかもしれませんが、お姫様気分が味わえていいものです。
これを読んで、イスラム教国家が難しくて、恐い訳ではないと感じてもらえれば、幸せです。どの国の人々にも日々の生活はあるのですから・・・
(看護課 : 神谷ひろみ)
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