肺がんによる死亡数は年々増加しており、1993年には男性のがん死亡数の第1位となりました。98年度には男性女性を合わせたがん死亡の第1位になっています。肺がんの死亡数を抑制するためには、(1)治療効果を高めること、(2)治療効果を期待できる時期に発見すること、が必要です。
(1)を目的として手術法の改良や手術器械の開発、新しい抗がん剤の開発、放射線療法の工夫、遺伝子治療の研究などが行われています。(2)肺がんの早期発見のためには、医療工学の分野ではヘリカルCTや蛍光内視鏡など診断機器の開発には目覚ましいものがありますし、遺伝子工学を応用した診断法も研究されています。
しかし、もっとも大事なことは一次予防、すなわち禁煙です。現に英国や米国では男性の喫煙率の低下とともに男性の肺がん死亡率は減少してきており、わが国でも男性喫煙率は1966年の83.7%をピークに以降減少してきているので、死亡率の増加にも鈍化傾向が現われはじめています。
さて治療法ですが、ご存じのように肺がんの場合、手術がその中心になります。肺がんの切除が行われ始めた1930年頃には、手術法はすべて片肺全摘でしたが、現代ではがんを含む肺の、葉切除が安全に行われるようになり術後の肺機能はかなり保たれるようになりました。この肺葉切除+リンパ節郭清が現在でも標準的な術式です。さらに根治性を追及して肺に隣接する臓器の拡大合併切除が可能になりました。麻酔法の進歩や、人工心肺などが利用できるようになって、これまであきらめざるを得なかった進行がん症例の手術ができるようになったのです。一方、機能温存のための術式は気管支や肺動脈の形成術があげられます。余分な肺の切除を極力抑えようという考えです。ただし、この手術も術中や術後急性期の患者の負担は小さいとはいえません。
ところで胸部の手術は標準的な肺切除の場合は、背中から斜めに肋骨に沿う30cmくらいの切開をおこなって開胸していましたが、この数年の間に胸腔鏡を用いた手術が定着し、たいていの手術は胸腔鏡か、胸腔鏡に小切開創を加えるという操作で行えるようになってきました。患者さんには術後疼痛の緩和や、肺機能低下の軽減ができ、入院期間も短縮できるというメリットがあります。さらに、末梢の小型の肺がんのなかには、部分切除や区域切除といって片方の肺の10分の1程度を切除するだけでも、治癒が期待できるものがあることもわかってきました。
このように手術療法は着実に進歩を遂げてきましたが、まだまだ問題もあります。患者さんには高齢者が多いこともあって、肺機能の低下や、糖尿病、心臓病などの基礎疾患を抱えた方もかなりいます。このため、同じ病期、組織型でも、それぞれの患者さんが治療の侵襲に耐えられるかどうかで、選ぶことのできる治療法が制限されてきます。手術は根治を得るための最良の手段ですが、以前に結核を患っていたり、肺気腫があったりして、肺機能が落ちている人では、さらに肺の機能を損なうことになるので、残念ながら手術以外の方法に期待するしかないわけです。
重粒子の話題に移りましょう。放医研ではがんに対する重粒子線治療という臨床研究を行っています。重粒子の利点は切除に匹敵する局所の効果を期待できることと、治療による侵襲が比較的低いという点です。肺がんでは、主にI期の肺機能低下や合併症のために手術適応のない人を対象として治療が開始されました。手術成績と比較しても遜色のない成果が得られています。肺がんでは高齢者や低肺機能(第1肺がん切除後の第2肺がん発生など)で手術のできない症例は今後増加してくると思われるので、重粒子線治療は手術に替わる有効な治療法です。
では手術が可能な患者さんに対して、重粒子のほうが手術に優るということがあるだろうかというお話しは次回に。

(重粒子医科学センター病院 山本 直敬)
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