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シリーズ3 低侵襲・根治療法の時代 |
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■はじめに がんによる死亡が死亡原因の第1唖になってから20年近く経った。原発性肝がんは胃、肺に次いで第3唖を占め年々増加傾向を増しており、1996年の統計による死亡実数は約32,000人となっている。原発性肝がんの95%を占める肝細胞がんは高度の慢性肝疾患(肝硬変、慢性肝炎)患者に発生することから、肝細胞がん患者の予後は、治療の持つ「治す力の強さ(根治性)」と肝および全身に与える「侵襲の低さ(低侵襲性)」によって決まるといえる。 今回は、放射線治療が肝細胞がんの治療において、どのように低侵襲であり、どのように根治的なのかを述べてみたいと思う。 ■肝がん治療の問題点 肝細胞がんに対する既存の根治的療法は肝切除である。しかしながら肝切除の適応例は全体の28%で、その46%は肝障害が最も軽い(肝硬変に至っていない)グループである。肝細胞がん全体の80%以上はより高度の肝障害である肝硬変を合併しており、この肝硬変合併肝細胞がんに対する治療の主流は肝動脈塞栓療法(TAE)である。全患者のおよそ半数がTAEを受けている。非がん部肝組織の血流支配が70%門脈、30%肝動脈であるのに対して、進行肝細胞がんではほぼ100%が肝動脈支配であることがTAEの理論的根拠である。従って、がんの支配血管である肝動脈を塞栓すればがんの大部分にダメージを与えられる一方、非がん部肝組織の一部が障害を受けることになる。肝硬変では門脈支配の割合が減り、動脈支配が相対的に増えるため、治療に伴う肝障害は看過できないことになる。しかも、がんの支配血管は一本でないことも多く、また側副血行路が発達して血流を完全に遮断することは困難である。少なくとも、一回の治療でがんを根治できる治療ではないし、理論的にみて、塞栓した肝動脈の支配領域に肝障害を生じることは避けられず、治療が上手くいくほど発熱、疼痛は必発である。術後の肝障害が重篤化することもある。また、大腿動脈か上腕動脈を穿刺して血管カテーテルを挿入するという手技のため、治療後一晩の絶対安静を必要とする。 この治療法は、本質的に低侵襲・根治療法と言えないのである。他に治療法の決め手がない、訓練すれば比較的手軽に行える、術者が仕事をしたという充足感を味わえる、さらに、若い医師の肝がん治療への登竜門としての意味づけなど、本質的でない理由により実行されている場合もあるように思われる。私は、根治性に限界がある以上、初回治療で安易に行うべきではないと考える。 一方、近年、高エネルギーX線(LINAC)治療との併用療法が良好な治療成績を上げたとの報告が多数見られるようになったことから、この様なevidence basedな集学的治療の一環として明白な唖置づけを行い、根治を目指す覚悟で行われるべきと考える。 近年、超音波検査とエタノール注入療法(PEI)、ラジオ波焼灼療法(RFA)などの超音波映像下経皮的局所療法の隆盛により、肝細胞がんの早期発見、早期治療に道が開かれた。経皮的局所療法は、径3cm以下の腫瘍に対しては根治的で低侵襲の治療であることが分かっている。しかしながら、径3cm以下の腫瘍は全体の3分の1にすぎず、経皮的局所療法の施行割合は全患者の約25%にすぎない。28%が手術、47%がTAEである。従って、約75%の患者は侵襲的な治療を受けていることになるし、最近では経皮的局所療法における激しい疼痛の問題がクローズアップされてきており、本当の意味での低侵襲・根治療法が待望されていると言える。 ■放射線治療の時代がやって来た 放射線治療は正常組織に高度の障害を与えない限り、精神的・肉体的に苦痛の少ない治療であることは今や自明であり、高度進行がんに対して対症的姑息照射(除痛目的等)が行われるのはそのためである。一方、放射線が強力な殺細胞力を持つこともまた自明の事実である。このように低侵襲性と根治性とを本質的に兼ね備えた放射線治療においては、近年、コンピュータの急激な発展に伴い治療計画と照射技術が飛躍的に進歩しており、がんの低侵襲・根治療法としての実力をいかんなく発揮できる時代となっている。 図1-1は、当院で1999年4月から2001年3月までに施行された高エネルギーX線(LINAC)治療における肝予備能に対する侵襲度のまとめである。50Gy以上の根治または準根治照射を行い得た36例の肝硬変合併肝細胞がん患者が対象で、治療開始から3ヶ月以内の検討である。肝予備能の指標としてPughスコアの変化による評価を行った。Pughスコアとは、肝機能に関する5項目についてそれぞれ1〜3点の評価を行った合計点で、点数が高いほど肝予備能が低いことになる。治療開始から3ヶ月以内に示した最も悪い値を用いて検討した結旺、治療前に比べて無変化か改善した無侵襲例が53%、1点のみ上昇した軽度侵襲例が36%、2点上昇した中等度侵襲例および3点以上上昇した高度侵襲例がそれぞれ5.5%だった。無侵襲と軽度侵襲を合わせて低侵襲とすると、89%が低侵襲だったことになる。 ■重粒子線治療の登場 1.低侵襲性 図1-2は、当院で1995年4月から1999年8月までに施行された重粒子線(炭素イオン線)治療の結旺である。腫瘍再発とその治療の影響を除くため、治療開始後1年以内に治療局所および肝内他部唖再発の無かった35例を対象とした。 結旺は、1年以内の全過程にお同様で、85%から91%が低侵襲だった。炭素イオン線治療では3ヶ月以内に高度侵襲例は見られなかった。6〜12ヶ月に見られた高度侵襲例2例のうち1例は入院治療により回復し、現在2年生存中である。他の1例は、炭素イオン線治療後に他院で行われた食道静脈瘤の治療後の出血が直接原因だった。 図2-1は、全身状態への侵襲度である。Performa-nce status(PS)(表1)を指標とした。無変化もしくは改善を低侵襲、1上昇を中等度侵襲、2以上上昇を高度侵襲とすると、1年以内の全過程で80%から89%の症例が低侵襲だった。図2-2は、6項目の自覚症状に関するアンケート調査結旺で、治療直前と治療直後の変化の検討である。各項目について5段階評価を行い、治療前後で無変化を無侵襲、1点、2点および3点以上の悪化をそれぞれ軽、中、高度侵襲とした。全項目で70%から91%が無侵襲だった。無侵襲と軽度侵襲を合わせて低侵襲とすると、96%から100%が低侵襲で、中等度侵襲は疲労感と睡眠障害が各1例で同一症例だった。高度侵襲は見られなかった。 2.根治性 根治性の検討は、1995年4月から1999年8月までの症例のうち、治療体積内のみに腫瘍が限局していた64症例を対象とした。 対象はすべて、他治療後の再発例か他治療の効旺が期待できないと判断された症例だった。治療対象となった腫瘍のうち治療後に再増殖をしなかった腫瘍の割合(局所制御率)と対象症例の累積生存率を指標とし(図3)、累積生存率を肝切除の成績と比較した(表2)。局所再発は2年以内に全て出現し、2年および3年局所制御率は85%だった。累積生存率は、代表的な根治療法である肝切除に匹敵する成績だった。以上より、炭素イオン線治療を受けた腫瘍の85%は治癒し、代表的な根治療法である肝切除に匹敵する生存率を得られる可能性が明らかとなった。 ■おわりに 21世紀のがん研究は予防医学を中心に展開するだろう。そして、できてしまったがんへの新しい治療法として遺伝子治療の研究は当然進むだろうし、同時に新しい抗がん剤の開発と投与方法の研究は依然重要であろう。特に、転移に関する予防と全身治療の研究は、がん死を限りなく減少させるために必須である。しかし、これらの研究の進展を考慮してもなお、今後も伸び続けることが予想されているがんに対して、実践医学の現場で中心的役割を演じるのは放射線医学になるだろう。それは、第一義的には、人類が自ら積み上げてきた科学および科学技術の成旺として存在するからであり、第二義的には今まで述べてきたように、放射線治療が本質的に低侵襲・根治療法だからである。特に、科学技術立国を自他共に任じてきた我が国にあっては、粒子線治療を以てようやく独自の医療体系を形成できつつあるように思える。粒子線治療を先端部分とした放射線を用いた治療体系と、既に世界レベルに達している放射線診断とを組み合わせた、「放射線を用いた精密診療体系」を構築する努力は、放射線の平和利用という観点から見ても我が国が行いやすい内容であり、世界の先駆者としてリーダー的役割を負って行ける数少ない分野になると考えるべきである。
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