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放射線診断による被ばくと発がんに関する最近の新聞報道と、
その元になった科学論文について
放医研・放射線安全研究センター
ランセット論文検討タスクフォース
はじめに
最近、日本では診断用放射線の利用回数が他の欧米諸国と比べて3倍ほど高く、それに伴いがんになる危険性も大きいという新聞報道がありました。この報道は、英国の医学雑誌「ランセット」に掲載された論文を元にしたものです。 放射線安全研究センターでは、放射線の人体への影響に関して様々な面から研究を行っておりますので、この論文や新聞記事について、解説や説明をさせていただくことにしました。お読みになって、さらに、ご質問やご意見がありましたら、ご遠慮なく放射線安全研究センターまでお問い合わせください。
1.新聞報道について
本年2月10日の朝日新聞、読売新聞等に「放射線診断での被ばくを原因とする発がんは日本が最高である」という記事が掲載され、また、TV番組や週刊誌でもこの問題が取り上げられました。その概要は、1991-1996年における診断用X線の回数を調査した結果、日本人の医療被ばく回数はイギリスなどに比べ3倍ほど高く、従って、日本ではX線診断によってがんになる人が、全がんの3.2%をしめるというものです。これは英国の医学雑誌ランセットの2004年1月31日号に掲載されたBerrington博士らの論文を元にした記事です。新聞記事だけを見ると、放射線診断は危険なことのようにも受け取られますが、放射線診断によって病気が見つかったり、よい治療ができるという利益(専門的には便益といいます)と、放射線によってがんになる危険度(専門的にはリスクという)を十分に考えて行われていますので、むやみにご心配にならず、必要な検査はお受けになるのがよろしいでしょう。また、心配に感じたときは遠慮なく担当の医師や放射線技師の方にお尋ねになることも重要と考えます。
それでは、以下にランセットに掲載された論文と関連する論評の解説、言葉の説明などを掲載します。
2.ランセット論文および関連論文の解説
■ ランセット論文(Berringtonらによる2004年の公表論文)の要点 ■
英国、米国、日本など15ヶ国におけるX線診断(通常のX線撮影やCT検査)の回数や診断による被ばく量、さらに年齢、性、臓器ごとに示した放射線の被ばく量と発がんの関係についてのデータなどに基づき、X線診断による被ばくを原因とする75歳までのがん患者数が推定された。この数が日本では年間7,587例で、がん患者全体の3.2%と推定された。日本以外では、英国、ポーランドがともに0.6%で最も低く、米国で0.9%、最も高いクロアチアでも1.8%だった。
■ ランセット論文に対する論評(Herzogらによる2004年の公表論文)の要点 ■
放射線について、これより少ない量であればがんが起こらないと証明されている値は存在しない。一方、X線診断で用いられる程度の放射線でがんが起きることを証明する信頼できるデータはない。Berrington博士らは原爆被爆者のデータなどを用い、X線診断を原因とするがんの割合を求めた。しかし、原爆被爆者のデータを用いているという点、また、X線検査によるがんの早期発見や早期治療などの便益を評価できなかったなどの点で限界がある。一般的な目標とすべきは、不必要なX線診断を避けることである。医療現場では各診断について患者に対する便益とリスクを注意深く考えなければならない。
3.ランセット論文に対する私たちの意見
X線診断に関しては、病気の早期発見や早期治療という便益が被ばくによる発がんというリスクを上回ると一般的に考えられています。Berrington博士らの論文では、X線診断による発がんリスクが推定されましたが、この推定には多くのデータや仮定が用いられており、得られた結果には多くの不確かさが含まれています。これまでの科学的知見からは、X線診断で受けるような少量の放射線によってがんが起きるとは考えにくいのですが、不明な点が多く残されております。そのような影響については、細胞や遺伝子を調べる実験や人間を対象にした調査など種々の研究で検討し解明する必要があります。放医研では、様々な角度から「放射線の人体への影響」に関する研究を進めており、国民の皆様が安心して安全に放射線をご利用いただけるように今後も研究を進めていきたいと考えています。
4. 関連する疑問と回答
■ ランセット論文の研究方法に関するQ&A ■
(1) 各国のX線診断を原因とするがんの割合はどのようにして計算されたのか?
各国の全ての国民が平均的な回数のX線診断を受けたと仮定し、その診断で受ける被ばく量と、原爆被爆者を長期間に渡って追跡調査して得られた被ばく量と発がんとの関係などに基づき、診断により増加するであろうがんの数が推定されました。そしてこの増加分を全てのがん患者数で割ることによってX線診断を原因とするがんの割合が求められました。
(2) X線診断の回数や受ける放射線量に関してどのようなデータが用いられたのか?
各国におけるX線撮影やCT検査の回数については、国連科学委員会の2000年報告書に出ている調査結果が用いられました。ただし、米国と日本の一部のデータについては、他国のデータから推定されました。更に詳しい男女別や年齢別の回数については、英国で実施された調査結果が用いられ、それが英国以外の国にも適用されました。また、X線診断によって受ける臓器ごとの放射線量については、フィンランドと英国の調査結果が用いられ、それらが両国以外の国にも適用されました。このように、15ヶ国全てについて自国のデータが用いられたわけではありません。
(3) 放射線の被ばく量と発がんとの関係についてはどのようなデータが用いられたのか?
原爆被爆者を長期間にわたって追跡した調査結果から得られた放射線の被ばく量と発がんの関係についての数式が用いられました。数式には、被ばく量だけでなく、被ばくした年齢や被ばくからの経過時間、性別などが含まれています。この数式は、放射線に少しでも被ばくすればがんになる危険度が増えることを意味しますが、少量の放射線が発がんなどの影響を起こすかどうかについては科学的に明らかになっていません。
(4) 計算の基礎となるデータとしてその他にどのようなものが用いられたのか?
がんについては、主に国や地域のがん登録に基づいて推定された1990年における各国の男女別・年齢別のがん罹患率のデータが用いられました。また、各国における全ての死因をあわせた男女別・年齢別死亡率のデータも用いられました。
■ ランセット論文の解釈や結論に関するQ&A ■
(1) X線診断で受ける放射線で本当にがんになるのか?
大量の放射線に被ばくすればがんの危険性が増えることは多くの研究で明らかになっています。しかし、X線診断で受けるような少量の放射線ががんを引き起こすかどうかについては科学的に明らかにされておらず、多くの議論があります。Berrington博士らの論文では、放射線に少しでも被ばくすればがんになる危険度が増えると仮定し、原爆被爆者のデータから得られた被ばく量と発がんとの関係を用いて、X線診断を原因とするがんの割合が計算されています。この仮定は、放射線の被ばく量に応じてDNAへの損傷の確率が増えるという発がんの機構に基づいています。しかし、最近になって研究が進み、DNAが損傷を受けたとき、その修復が行われることなどが分かってきました。その結果、原爆被爆者のデータに基づいて少量の放射線の発がんリスクを推定する場合には、リスクが過大評価されるという意見もあります。
(2) 本当にがん患者の3.2%はX線診断が原因なのか?
この数値は、基礎となるデータといくつかの仮説に基づいた複雑な計算をし、X線診断による被ばくが原因と思われるがん患者の数を推定し、これを全てのがん患者数で割ることによって求められました。これは、X線診断を受けた患者ががんになったかどうかを調べてX線診断と発がんの関係を求めたわけではありません。したがって、この3.2%は実際にX線診断を原因として起きるがん患者の割合を示すわけではありません。
■ X線診断全般に関するQ&A ■
(1) X線診断で受ける放射線の量は、自然に受ける放射線の量と比べて高いのか?
検査の種類や条件によって大きく異なりますが、遭A科学委員会の2000年報告書によれば、例えば1回の胸部検査で受ける放射線の量を実効線量で表すと、CT検査で平均10ミリシーベルト、一般のX線検査で平均0.01ミリシーベルトとなっています。一方、私たちは土壌、大気、食物などから自然放射線を受けますが、その量は1年間に世界平均で約2.4ミリシーベルトです。
(2) X線診断など医療で患者が受ける放射線の量には限度があるのか?
原子力施設作業者などが職業的に受ける放射線については、国際放射線防護委員会が勧告した値に基づいて日本でも限度が設けられています。患者が医療で受ける放射線については便益がリスクを上回るという前提で限度が設けられていませんが、適切に診断や治療が実施できる範囲で患者の被ばくを少なくする技術の開発が進められています。
(3) X線診断を受けることによる便益とリスクにはどのようなものがあるのか?
便益としては、がんを含む様々な病気の早期発見と早期治療が挙げられます。一方、リスクとしては放射線への被ばくによる発がんなどが考えられますが、X線検査で受けるような少量の放射線が発がんなどの影響を起こすかどうかについては科学的に明らかになっていません。
放射線とその医学利用に関するその他の疑問については以下をご覧下さい。
http://www.nirs.go.jp/info/qa/index.shtml
参考資料:
- Amy Berrington de Gonz_lez, Sarah Darby. Risk of cancer from diagnostic X-rays: estimates for the UK and 14 other countries, Lancet 2004; 363: 345-351.
- Peter Herzog, Christina T Rieger. Risk of cancer from diagnostic X-rays (Commentary). Lancet 2004; 363: 340.
- 放射線医学総合研究所監訳、放射線の線源と影響、原子放射線の影響に関する国連科学委員会の総会に対する2000年報告書 附属書付、実業公報社、2002年
- 日本放射線技師会ホームページ:http://www.jart.jp/news/news.html#0210_comment
- 日本放射線技術学会ホームページ:http://www.macnet.or.jp/jsrt2/news040220.html
- 日本保健物理学会ホームページ:http://wwwsoc.nii.ac.jp/jhps/paper/Lancet-Jan31-2004.html
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