お知らせ

X線診断検査と発がんのリスクについて
-Lancet論文とその後の新聞報道について-

The Lancet(2004年1月31日号)に掲載された論文 "Risk of cancer from diagnostic X-ray : estimates for the UK and 14 other countries(診断X線による発がんのリスク : 英国および14ヶ国の評価)" とそれを報道した新聞記事が関心を集めています。

放射線医学総合研究所では放射線による人体への影響、障害の予防、治療・診断並びに医学利用に関する研究開発を行っています。今回の記事に関連する研究として、医療被ばくの線量評価、放射線疫学研究、低線量被ばくの生体影響研究、ゲノムレベルでの発がん機構研究などの研究があります。当所では、放射線被ばくによる発がんリスクを正しく評価・理解することが重要と考えており、引き続きこれらの研究の充実を図って行きます。

医療被ばくについては、放射線防護に関して、国際放射線防護委員会(ICRP)が基本的な考え方をその勧告書で示しており、日本でも防護を考える上の基準とされ、法律にも取り入れられています。診断や治療を目的として放射線を浴びることを医療被ばく(medical exposure)と呼びますが、医療被ばくでは被ばくする本人(患者さん)が受ける医療上の便益が放射線による損害より大きいという前提*1で行われるため、線量限度*2 (dose limit) が設けられていません。生じるか否かわからないリスクを心配して必要な検査を行わないのはかえってマイナスであると考えられます。特に中高年齢の方々の診断による被ばくでは便益の方が圧倒的に多いと考えられます。しかし、妊婦(胎児)や小児の検査時の被ばくについては、放射線のリスクが成人に比べ大きいことが示唆されており、さらなる情報の蓄積が必要です。いずれにしても、適切に診断や治療が実施できる範囲で患者の被ばくをできる限り少なくすることが望ましく*3、診断参考レベル(diagnostic reference level)の線量を定めることが関連学会を中心に検討されています。

  1. 放射線防護の分野では行為(practice)の正当化(justification)と呼びます。医療行為における放射線の利用は一般的には正当化されています。
  2. 職業被ばく(occupational exposure)と公衆被ばく(public exposure)には線量限度があり、前者は5年間に100mSv(但し1年間に最大50mSv)、後者は1年間に1mSvです。
  3. 放射線防護の分野では防護の最適化(optimization of protection)と呼びます。

Lancet掲載の論文については、X線診断検査による線量と頻度から発がんリスクを推定したもので研究自体興味深いものですが、この論文は著者の入手可能なデータからモデルを用いてリスクを推定したものであり、不確かさを含んだものであることを著者も認めています。特に注意すべきことは、患者さんが受けるべきX線検査を忌避して、受けられるはずの健康上の便益を受けられないことがあってはならないということです。この問題については、以下の学会等のホームページでも紹介されています。

また、当所では、有志によるタスクフォースにて標記についての見解をまとめていますのでご覧下さい。

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