宇宙滞在中の宇宙放射線被ばく線量の大幅な低減法を初めて実証
―有人宇宙探査に向けた宇宙飛行士の被ばくリスク低減に大きく貢献―

2013年12月27日
独立行政法人放射線医学総合研究所
ロシア科学アカデミー生物医学問題研究所
チェコ科学アカデミー原子核研究所

本研究成果のポイント

独立行政法人放射線医学総合研究所(理事長 米倉義晴、以下、放医研)の小平聡研究基盤センター研究員ら、ロシア科学アカデミー生物医学問題研究所Vyacheslav Shurshakov(ヴャチェスラフ シャルシャコフ)研究部長ら、チェコ科学アカデミー原子核研究所Iva Ambrozova(イヴァ アムブロゾワ)研究員らの国際研究チームは、宇宙滞在中の宇宙放射線による被ばく線量を大幅に低減する方法について、ロシア人宇宙飛行士の協力のもと、国際宇宙ステーション(以下、ISS)のロシアサービスモジュール内において、実証に成功しました。
宇宙には様々な放射線が混在しており、宇宙飛行士は単位時間当たり地上の100倍以上の線量(1日あたり0.5〜1mSv)を被ばくしています。宇宙空間において必要な遮へい効果を得るためには、地球から宇宙へ持ち出す遮へい材が大量に必要となりますが、打ち上げロケットの積載重量には制限があり、また打ち上げコストも多額となるため、遮へい材の打ち上げには至っていません。また、宇宙放射線が遮へい材と反応して発生する二次的な放射線が人体へ余計に悪影響を及ぼしたりするなどの問題があります。このため、現状ではISS船壁や実験計器などによるわずかな遮へい効果に頼るだけで、積極的な遮へい措置は取られていません。将来的に、有人活動の拠点が、地球近傍のISSから、遠く離れた月面や火星へと移る際には、宇宙滞在が長期間になることや、地球の磁場による放射線低減効果が無くなることで被ばく線量の大幅な増加が懸念されます。
そこで、当研究チームは、二次的な放射線が発生する割合が金属素材よりも小さく、さらに中性子線の遮へい効果にも優れている「水」を遮へい材としての利用を考え、入浴設備が無いISSで身体を拭くために大量に常備されているウェットタオルに着目しました。ウェットタオルを板状に積み重ねて作成した遮へい体(厚さ6.3 g/cm2※1)をISS内に設置し、その前後での放射線量を研究チームが開発した方法で実測した結果、37%の被ばく線量の低減効果を実証しました。この結果は地上でのシミュレーション計算結果とも一致しており、ウェットタオルが有効な遮へい手法であることを実地で初めて明らかにしました。この手法は常時用意されている物資を有効活用するもので、新たに遮へい材を持ち込む必要がありません。本成果は、将来的に月面や火星等の長期間にわたるミッションを行う際の宇宙飛行士に対する安全性向上への取組に寄与すると期待されます。
本成果は、宇宙科学専門誌Advances in Space Researchのオンライン版には、すでに掲載されています。

背景

宇宙は、太陽や銀河からやってくる重粒子線※2や中性子線、ガンマ線など多種多様の宇宙放射線が混在した非常に複雑な放射線環境です。ISSの活動領域では地球自身が持つ磁場によって形成される地磁気によって、重粒子線などはある程度軽減されるものの、そこに滞在する宇宙飛行士は単位時間当たり地上で受ける線量の100倍以上(1日あたり0.5〜1mSv)を被ばくしています。
これまでも宇宙放射線から身を守るための素材や手法について研究されてきましたが、宇宙空間において必要な遮へい効果を得るためには、地球から宇宙へ持ち出す遮へい材の重量が重くなりすぎ、打ち上げロケットの積載量では対応できず、また逆に宇宙放射線が遮へい材と反応して発生する二次的な放射線が人体へ余計に悪影響を及ぼしたりするなどの問題点がありました。また、それらを解決する研究を行おうにも宇宙空間の複雑な放射線環境を地上で再現して研究することは困難を伴います。
そのため現在でも、宇宙飛行士の放射線防護は国際宇宙ステーション(以下、ISS)の船壁や実験計器などによるわずかな遮へい効果に依存するだけで、積極的な遮へい措置は取られていません。今後、有人活動の場が地球近傍のISSから、さらに遠く離れ、地球ほど磁気が強くないため、放射線低減効果が地球より小さい月面や火星へと移ることで、宇宙滞在の長期化による被ばく線量の大幅な増加が懸念されており、宇宙飛行士の宇宙線による被ばくをできる限り低減する手法の確立が求められています。

図1. ISSに搭載されているウェットタオル(図中a)とそれを4枚積層しボード状に組み上げ(図中b)、ISS船内に配置する(図中c)。作成したボード全体の重量は67kgで、平均的な厚さは6.3 g/cm2

被ばく線量の評価は、放医研が有する放射線計測技術の一つである受動型線量計※3を用いて実施しました(図2)。この計測技術は、重粒子線などが混在した複雑な放射線環境において高精度に被ばく線量を評価することができます。
2010年6月16日から同年11月26日までの約半年間、ウェットタオルの遮へい体が有る6か所と無い6か所の合計12か所で放射線量の測定を行い、遮へい体の有無による被ばく線量の変化を実測しました(図3)。このうち、厚いガラス窓で遮蔽され、正確な結果を得られなかった4か所を除いて線量を求めると、遮へいがない位置では一日当たり962 µSvの線量値(4か所の線量当量の平均値)であったのに対し、遮へいがある位置では一日当たり593µSvで、遮へい体の有無で線量値が大きく変化することがわかりました。遮へい体の有無に対応した各線量計の位置における遮へい率を計算し、その平均値をとった結果、ウェットタオル遮へい体(厚さ6.3 g/cm2)による線量低減割合は37±7%(線量当量値)であることを実証しました。また、この結果はシミュレーション計算による推定結果(水中6.3 g/cm2の厚さで34%の線量低減割合)とほぼ一致することを確認しました。

図2. 受動型線量計(12か所分:左図)とその中身(右図)。中身は熱蛍光線量素子とCR-39飛跡検出器が構成されている。

図3. 各線量計の位置番号における一日あたりの線量当量値の変化(ウェットタオルによる遮へいがある位置は赤、遮へいがない位置は青)。黄色枠は宇宙空間を覗くために設置してある円形の厚いガラス窓がある場所で、その部分だけ特別に遮へいされている状態にある。

研究成果と今後の展望

本成果は、既に搭載されている物資を遮へい材として利用しているため、すぐにも活用が可能と考えられます。また、ISSで活動している宇宙飛行士の被ばく線量の低減に効果的な手法であるだけでなく、将来的に月面や火星等の長期間にわたるミッションを実施する上で宇宙飛行士の安全性の向上に寄与すると期待されます。また、この線量低減効果に関する実験についてはJAXAと連携した実験も計画しています。

書誌情報

S. Kodaira et al. "Verification of shielding effect by the water-filled materials for space radiation in the International Space Station using passive dosimeters", Advances in Space Research, 53(1), 1?7 (2014); http://dx.doi.org/10.1016/j.asr.2013.10.018

用語解説

※1  厚さの単位 g/cm2

 放射線量は遮へいする物質の密度にも依存して減衰していきます。物質の厚さ(cm)にその物質の密度(g/cm3)をかけることで得られる物質量(g/cm2)は、どの物質にも共通の単位となり、放射線が通過する遮へい材の実際の厚さを表現するのに使われます。
本実験においては、密度の異なる2種類のウェットタオル(ティッシュタイプとタオルタイプ)をそれぞれ4枚重ねて並べています(ティッシュタイプの厚さは6.8cm、タオルタイプは8.4cm)。しかし、物質量にすると、どちらもほぼ同じ6.3g/cm2になります。

※2 重粒子線

 ヘリウム以上の原子がイオン化し、高速に加速された状態の放射線の一種。宇宙空間を飛ぶ放射線の中で太陽系外から飛んでくるものにも重粒子線が含まれ、高いエネルギーを持った鉄(原子番号26)までの重さの原子核が主成分となります。太陽系外で起きる超新星爆発などの高エネルギー天体現象によって生成・加速されていると考えられています。

※3 受動型線量計

 宇宙放射線は様々な放射線が混在しているため、単一の放射線検出器ではカバーしきれません。このため、この線量計では、比較的軽い粒子成分と、重い粒子成分をそれぞれ測定し、その結果を組み合わせることにより、全被ばく線量を評価します。この線量計自体は小型・軽量で、取扱いやすいという特徴を持っています。

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独立行政法人 放射線医学総合研究所 企画部 広報課

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