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適応となっている疾患について

3. 粘膜下層浸潤癌に対する重粒子線単独治療について

3-1 重粒子線照射を行う背景

最近、内視鏡検査の診断技術の進歩に伴い、より早期に診断される食道癌の割合が増えています。癌の深さが粘膜内あるいは粘膜下層にとどまる表在癌では壁深達度によりリンパ節転移の頻度が大きく異なります。粘膜下層に浸潤する病変(T1b)ではリンパ節転移のリスクが高くなり、局所治療である内視鏡的切除の適応には限界があり、主に手術または化学放射線療法が行われます。手術では表在癌であってもリンパ節転移のリスクが少なくないものに対しては進行癌に準じてリンパ節郭清が行われます。我が国の全国食道癌登録調査報告書によれば、臨床病期 I期の5年生存率は76.3%(手術を受けた人の76.3%が5年間生存)です。しかし、開胸・開腹を伴う食道癌の手術は侵襲が大きく、術後合併症も少なくありません。一方、日本臨床腫瘍研究グループのI期食道癌に対する化学放射線療法の第II相試験では4年生存率80.5%と良好な結果が報告されています。しかし、化学放射線療法で癌が消えたようにみえてもその後癌が再発することが少なくなく、4年無再発生存率は68.1%です。また、化学療法と放射線療法を併用することで白血球減少、肺臓炎、心嚢水貯留等の副作用も増加します。

この臨床試験に先がけて行われた2週間8回の術線炭素イオン線照射では、これまで重粒子線治療に伴う重篤な副作用は認めていません。線量増加とともに効果が高くなっていて、特に、T1b、T2では4段階目、5段階目の線量で治療した患者さんの大半が切除時に癌細胞が認められませんでした。また、T1bでは1名を除き、手術時にリンパ節転移を認めませんでした。

この結果から、転移所見を認めないT1b食道癌に対する炭素イオン線治療は根治的治療として期待できると考えられました。

3-2 重粒子線治療の概要、適応

1. 概要

粘膜下層浸潤臨床病期I期の胸部食道扁平上皮癌に対する炭素イオン線治療の第I/II相試験です。第I/II相試験とは安全性と有効性を確認する臨床試験で、安全性を確認しながら線量を徐々に増やしています。

炭素イオン線治療は、1日1回、週に3-4回、合計12回の照射を行います。治療期間は約3週間です。

2. 適格条件

治療を受けていただくためには、以下の条件をすべて満たす必要があります。

  1. 組織学的に確認された胸部食道扁平上皮癌である。
  2. 壁進達度がSM1-3でリンパ節転移、遠隔転移のいずれも認めない。
    すなわち病期がI期(T1bN0M0)である。
  3. 内視鏡で治療効果の評価が可能な病変である。
  4. 年齢は80才以下である。
  5. PS(ECOG)は0-2である。
  6. 本人に病名・病態の告知がなされており、かつ本人に同意能力がある。

3. 不適格条件

以下の条件が1つでも該当する患者さんは対象外となります。

  1. 食道病変が8cmを超える(装置の制約による)。
  2. 食道壁内転移を有する。
  3. 当該食道癌に対する前治療歴がある。
  4. 当該照射部位に放射線治療の既往がある。
  5. 活動性の重複癌を有する。
  6. 照射領域に活動性で難治性の感染を有する。
  7. 医学的、心理学的または他の要因により不適当と判断される。

3-3 これまでの結果

この臨床試験は2008年4月に開始し、2012年8月までに15名の患者さんが重粒子線治療をお受けになりました。安全性を確認しながら照射線量の増加をこれまでに2回行い、現在は3段階目の線量で治療しています。

これまで、食道および周辺臓器に重篤な副作用は認めておりません。線量の増加とともに腫瘍に対する効果が高くなる傾向がみられていますが、治療後の経過が短いため最終的な結果はまだお示しできません。

治療に伴う有害事象として食道炎は避けることはできません。照射の後半から食物のつかえ感や嚥下時の痛み等の症状が出現しますが、その程度には個人差があります。症状に応じて食事内容の変更が必要となり、水分や栄養を補うために輸液が必要になることもあります。照射後2-4週で食道炎の症状は軽快し、ほぼ治療前と同じ食事が摂れるようになります。照射された皮膚に軽い日焼け程度の皮膚炎がみられた患者さんもいますが、全く目立たなかった患者さんもいます。また、白血球が軽度低下した患者さんもみられましたが、その程度は軽く特別な処置は必要ありませんでした。このように、現在までは重篤な副作用は認めておりませんが、線量増加試験ですので今後副作用が強くなる可能性はあります。


  1. 当院を受診していただくに際して
  2. 食道癌の一般的な治療について
  3. 粘膜下層浸潤癌に対する重粒子線単独治療について
  4. 化学療法併用術前重粒子線治療について
  5. 食道癌に対する重粒子線治療の手順
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