適応となっている疾患について

2. 膵がん治療の現状と重粒子線治療への期待

術前重粒子線治療

膵がんは特徴的な自覚症状はなく、膵周囲脂肪組織、神経叢、大血管に容易に浸潤し、腫瘍として診断された時にはすでに進行がんであることが多いきわめて難治性のがんです。膵がんに対する治療は外科的切除が主流ですが、全国163施設における切除例4498例の5年生存率は17.5%と低く、消化器癌の中で最も治療成績が悪いといえます。肉眼的に治癒手術であっても、特に後腹膜における微少癌残遺が原因で組織学的非治癒切除となることが多く、肝転移と並んで再発の50%を占める後腹膜再発(膵臓を切除した局所)が予後を悪くする主要因と考えられています。膵がんの治療成績を上げるためには、切除可能例におけるこの問題を解決することが当面の課題と考えられます。

後腹膜の癌残遺対策として、より広範囲の切除を行うことは患者さんへの侵襲が大きく、腹部神経叢および消化管切除に伴う重篤な消化吸収障害によりQOLを大きく低下させる可能性が高いと思われます。このため手術範囲を拡大することなく、化学療法あるいは放射線療法を併用する方法が試みられてきました。近年の化学療法あるいは放射線照射技術の進歩に伴い、術前化学放射線療法により治療成績の向上が期待されていますが、未だ確実な成果は得られていません。その理由として、1.膵がんは腺がんであり、通常の放射線に対して感受性が低い可能性があること、および2.周囲の消化管、肝、腎、脊髄など比較的耐容線量が低い重要臓器と、消化管、胆管、残存膵の手術吻合部を照射野から外すことが困難なため、十分量の放射線を病巣に集中させることができなかったこと、などが考えられています。重粒子線は線量集中性に優れ、高い生物学的効果を有することより通常の放射線よりも大きな治療効果が期待されます。したがって、重粒子線を膵がんの術前照射に応用し、膵腫瘍と膵周囲組織、特に後腹膜領域に線量を集中して照射を行えば、患者に過大な負担をかけることなく術後の局所再発を抑え治療成績を向上させることができる可能性があります。

局所進行膵がんに対する重粒子線治療

現在、手術ができない局所進行膵がんに対しては化学療法あるいは化学放射線療法が行われますが、治療成績は1年生存率40%、生存期間中央値10ヶ月程度と満足すべき結果ではありません。そのため種々の試みが行われてきましたが、優れた成績を示す化学放射線療法は確立していません。化学療法では近年ゲムシタビンが進行膵がんに対する第一選択の抗がん剤と位置づけられています。現在、放射線との併用療法に関する臨床試験が世界中で施行されていますが、高い抗腫瘍効果が期待される一方、高率に発生する正常組織障害とくに血液・消化器毒性が臨床上大きな問題となっています。2000年から開始された膵臓がんに対する術前炭素イオン線の臨床試験(9906)では、膵がんとがんが浸潤している可能性の高い膵周囲組織に重粒子線を集中することが可能であり高い抗腫瘍効果が示されるのと同時に、膵周囲の胃・小腸・肝臓などの照射線量はX線照射に比較し著明に低下させることが可能であり正常組織障害の発生は極めて低いことが示されました。臨床試験(9906)の結果より、重粒子治療は極めて難治性である局所進行膵がんに対しても安全に施行でき、十分な治療効果を得ることが期待されました。


  1. 当院を受診していただくに際して
  2. 膵がん治療の現状と重粒子線治療への期待
  3. 治療の適応と方法
  4. 膵臓がんに対する重粒子線治療の手順の説明
  5. 治療成績
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